宇宙航空研究開発機構(JAXA)は8月17日、「革新的衛星技術実証2号機」に関する記者説明会を開催した。同機には、公募により選ばれた6つの部品・コンポーネント、4機の超小型衛星、4機のキューブサットを搭載。10月1日、内之浦宇宙空間観測所より、イプシロンロケット5号機にて打ち上げられる予定だ。

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    「革新的衛星技術実証2号機」の搭載イメージ (C)JAXA

部品やコンポーネントまで実証

JAXAの「革新的衛星技術実証プログラム」は、2年に1回、計7回の打ち上げ実証を予定しており、今回が2回目。1号機はすでに2019年1月に打ち上げられており、3号機は2022年度に実施する予定だ。実証テーマは通年で募集中。

同プログラムの目的は、大学・研究機関・企業の革新的な技術やアイデアを、宇宙空間で実証することだ。宇宙分野は、信頼性が極めて重視されるため、どうしても新しい技術は使われにくい傾向がある。そこで、国が実証機会を定期的に提供。技術革新を促し、国際競争力を高めることを目指す。

今回、実証テーマとして採択されたのは14件。同プログラムの特徴は、部品やコンポーネント単位での応募も可能であることだ。衛星1機を作って応募するとなると、様々な技術が必要となり、難易度が高くなってしまう。しかしJAXA側で用意してくれる母衛星に搭載するのなら、開発のハードルが下がり、応募しやすくなる。

母衛星である「小型実証衛星2号機」(RAISE-2)は、大きさ75cm×100cm×100cm、重さ110kgの小型衛星だ。この中に、以下の6つの実証テーマを搭載する。

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    RAISE-2の外観と、実証する部品・コンポーネントの配置 (C)JAXA

1.マルチコア・省電力ボードコンピュータ「SPRESENSE SPR」(ソニーセミコンダクタソリューションズ)

宇宙空間で半導体部品を使う場合、深刻な問題となるのが放射線だ。高エネルギーの粒子が回路に当たることで、ビットが反転したり、過大な電流が流れたり(ラッチアップ)し、機器の破損に繋がることもある。これは製造プロセスが微細化するほど起こりやすく、高性能な最新製品が使いにくい原因にもなっている。

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    SPRESENSEは省電力性に優れ、超小型衛星での活用が期待される (C)ソニーセミコンダクタソリューションズ

SPRESENSEはもともと宇宙用ではないものの、省電力のために採用していたFD-SOIプロセスには原理的にラッチアップしにくいという特性があり、宇宙に向いている。今回、実証のために、カメラやMEMSジャイロセンサー等を搭載した装置を開発。地球側と宇宙側に設置し、衛星の姿勢を推定する実験を行う。

2. クローズドループ式干渉型光ファイバジャイロ「I-FOG」(多摩川精機)

衛星の姿勢変化の検出に使われるのがジャイロだ。光ファイバジャイロは高性能であるのが特徴だが、中でもクローズドループ式はオープンループ式よりさらに精度を上げることができる。従来は海外製品が使われることが多かったが、国産化により短納期を実現し、同時に低コスト化も狙うという。

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    I-FOGは数100kg級の小型衛星にも対応可能な性能だという (C)多摩川精機

3. CubeSat用国産小型スタートラッカ「ASC」(天の技)

カメラで星を観察し、その見え方から衛星の姿勢を推定する装置がスタートラッカ(STT)である。1号機で実証した深層学習の技術をベースに、ASCでは装置の小型化(1/4Uサイズ)と省電力化(1W以下)を実現。軌道上で機能を実証し、キューブサットにも搭載できる安価な国産STTの商用化を目指す。

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    ASCは、小型・省電力・低コストが特徴のスタートラッカだ (C)JAXA

4. 3DプリンタX帯アンテナ「3D-ANT」(三菱電機)

今回の会見では特に説明が無かったのだが、3D-ANTは、金属3Dプリンタで製造した通信アンテナの軌道上実証を行う。通信アンテナの製造には高精度の加工技術が必要だが、3Dプリンタで実現できれば、低コスト化や軽量化が期待できる。大量の衛星を使うメガコンステレーションにも適しているだろう。

5. 軽量・無電力型高機能熱制御デバイス「ATCD」(東北大学)

地上の機器では冷却にファンを使うのが一般的だが、真空の宇宙空間ではこれは不可能。不要な熱は赤外線の放射という形で宇宙空間に逃がすしかなく、衛星ではそのための熱制御デバイスとして「OSR」などが搭載されている。あまり注目されることはないが、熱制御は衛星の生存に欠かせない非常に重要な機能である。

ATCDでは、展開式のラジエータを放熱に使用する。ラジエータは大きく開くほど放熱能力が向上するのだが、展開動作には形状記憶合金を使うため、電力は不要だ。また、2種類の軽量熱伝導材(グラファイトを重ねたものと、超薄型ヒートパイプを使ったもの)も搭載。内部にヒーターを設置し、熱制御性能を調べる。

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    ラジエータの展開を確認するため、横にカメラも搭載する (C)東北大学

6. 冗長MEMS IMU「MARIN」(JAXA)

ジャイロや加速度計により、運動を検出する装置がIMU(慣性計測装置)である。MARINは、IMUを2ユニット内蔵。民生品の活用によりコストを下げつつ、冗長化により高い信頼性を確保する。さらに各IMUには車載MPUを2つ搭載し、相互監視させることで、放射線による誤動作も検知できる。今回、放射線耐性を確認し、ロケットや衛星への展開を目指す。

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    IMUの用途は幅広い。月面ランダーや回収カプセルにも適用できる (C)JAXA

重工メーカー2社が開発の衛星も

名称がちょっと分かりにくいのだが、革新的衛星技術実証2号機というのは、9機の衛星の総称である。部品・コンポーネントを実証するRAISE-2のほかは、以下のような構成となっている。

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    革新的衛星技術実証2号機での各衛星の配置。合計9機を搭載する (C)JAXA

超小型衛星4機

1. 可変形状姿勢制御実証衛星「HIBARI」(東京工業大学)

HIBARIは、4本の長いパドルを搭載。これを素早く動かすことで、高速に姿勢を変えられるか試す。地球観測衛星などで、より多くの地点を撮影するのに利用できるだろう。高度を下げる軌道制御や、リアクションホイールのアンローディングにも活用可能。さらに、科学観測用の紫外線カメラの実証も行う予定だ。

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    HIBARIは、4本のパドルを動かして、姿勢制御と軌道制御を行う (C)東京工業大学

2. 複数波長赤外線観測超小型衛星「Z-Sat」(三菱重工業)

Z-Satは、近赤外線と遠赤外線という2つのカメラを搭載する衛星だ。近赤外線画像は地形や高温熱源、遠赤外線画像は低温熱源の観測に適しており、複数波長の取得画像を重ね合わせることで、熱源に関する情報を分析する技術を実証する。将来的には、防災、地球環境変動監視、社会インフラ監視などへの利用が期待できるという。

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    Z-Satは超小型衛星ながら、複数波長による観測を実現する (C)三菱重工業

3. デブリ捕獲システム超小型実証衛星「DRUMS」(川崎重工業)

DRUMSは、デブリに接近する技術と、デブリを捕獲する技術の実証を行う。軌道上で模擬デブリを分離し、カメラで観測。画像処理で位置を特定し、窒素ガスの推進系を使って再接近する。実際の捕獲までは行わないものの、DRUMSではまず、長さ2mのアームを伸ばしてタッチするところまでを試す計画だ。

参考:川重がデブリ除去で衛星分野に参入、2020年にも打上げ-国際航空宇宙展2018

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    DRUMSは、デブリ除去事業等への参入を目指し、基礎技術を実証 (C)川崎重工業

4. 多目的宇宙環境利用実験衛星「TeikyoSat-4」(帝京大学)

TeikyoSat-4は、衛星内で宇宙実験を行う。今回は生命科学分野のミッションとして、容量10リットル程度の実験スペースを用意。この中で細胞性粘菌の挙動を観察する。現在、宇宙実験は国際宇宙ステーション(ISS)で行うことが多いが、超小型衛星を“マイクロISS”化することで、低コスト化が期待できるという。

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    TeikyoSat-4は宇宙実験のため、衛星としては珍しく気密環境を持つ (C)帝京大学

キューブサット4機

1. 宇宙塵探査実証衛星「ASTERISC」(千葉工業大学)

ASTERISCは、軌道上で大面積(30cm四方)の膜型ダストセンサーを展開、宇宙塵やスペースデブリの観測に挑む。この膜面には、複数の圧電素子を搭載。粒子が膜に衝突すると、その振動が伝わり、電圧変化として検出できる仕組みだ。低コストで大面積化も容易なため、惑星科学や宇宙環境問題への貢献が期待できるという。

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    ASTERISCのダストセンサーは、他用途の膜にも適用しやすい (C)千葉工業大学

2. 速報実証衛星「ARICA」(青山学院大学)

ARICAは、突発天体の発生を速報するシステムの実証を行う。ガンマ線バーストなどの突発天体はいつ発生するか分からないが、ARICAは民間通信衛星の通信網を活用することで、地上とのリアルタイム通信を実現、早期観測に繋げることができる。宇宙利用実績のないシンチレータを用いたガンマ線検出器の実証も行うという。

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    ARICAは1Uサイズながら、ガンマ線バーストの速報に挑む (C)JAXA

3. 高機能OBC実証衛星「NanoDragon」(明星電気)

NanoDragonでは、キューブサット用のオンボードコンピュータ(OBC)を実証する。このOBCは、民生品を活用することで、コストと信頼性のバランスの良さを実現。製品化を視野に、汎用性にも配慮した。衛星本体はベトナムの宇宙機関が開発しており、国際協力事業を行う上でのモデルケースとしても考えられているという。

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    NanoDragonは3Uだが、このOBCは16U程度まで対応できるという (C)明星電気

4. 木星電波観測技術実証衛星「KOSEN-1」(高知工業高等専門学校)

KOSEN-1は、全国の10高専が協力して開発した衛星だ。木星からのデカメートル波を観測するために、2Uサイズの小さな衛星ながら、両端で約7mという長いアンテナを展開、この電波のビーム構造を調べる。また、新しい姿勢制御技術として、薄型のデュアル・リアクションホイールを搭載しており、この技術実証も行う。

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    KOSEN-1は、OBCにRaspberry Piを搭載している (C)高知工業高等専門学校