日本科学未来館(東京都江東区)の第2代館長に就任した浅川智恵子氏(62)が25日、同館で初めて会見し「あらゆる多様性を持つ人々が来て、科学技術を知って議論して持ち帰る。この未来館をアクセシブルな(利用しやすい)ミュージアムとして世界のロールモデル(模範)にしたい」と抱負を語った。
中学時代に失明した浅川氏は、日本IBMで日本語デジタル点字システムや実用的音声ブラウザーを開発するなど、目が見えない人のための技術開発に貢献してきた。「館長の話を頂いた時には正直、悩んだ。しかし、誰一人取り残さない社会の実現に向け、より多くの人々とのつながりのある立場から貢献したいと考えた」と、就任決定時の心境を振り返った。
浅川氏は4月の就任にあたり、同館のビジョン「あなたとともに『未来』をつくるプラットフォーム」を掲げた。これについて「(利用者が)誰かが作った科学技術をただ一方的に学ぶのではなく、一人一人が新しい科学技術を身をもって体験し、それにより実現していく新たな生活を想像し、共に社会実装に向けて活動できる館にしたい」と強調した。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大の影響により、利用者の来館に制約が生じている。「オンラインでさまざまなイベントを行っている。来館される方とオンラインの方にハイブリッドで科学技術を伝え、コミュニケーションしていきたい。ただ、オンラインに物足りなさはある。どうすればもっと臨場感を出せるか話し合い、実験を重ねて探っていきたい」と述べた。会見後には、目が見えない人の外出を支援するロボット「AIスーツケース」を、開発した浅川氏自身が実演した。館内を案内する機能を開発中という。
浅川氏は1958年、大阪府生まれ。11歳の時のプールでのけがにより徐々に視力が衰え、14歳で失明した。85年、日本IBMに入社し研究開発に従事。2009年、IBMフェロー。14年、米カーネギーメロン大学IBM特別功労教授。今年4月、日本科学未来館長に、初代の毛利衛氏(73)に代わり就任した。研究拠点としてきた米国からの帰国がコロナ禍で遅れ、この時期の会見となった。
同館は「科学技術を文化として捉え、社会に対する役割と未来の可能性について考え、語り合うための、すべての人々にひらかれた場」を理念とし2001年開館。政府の科学技術基本計画(現科学技術・イノベーション基本計画)に基づき、科学技術への理解を深める拠点として開館した国立の科学館で、科学技術振興機構(JST)が運営する。
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