ispaceは8月24日、同社が計画している3回目の月探査ミッション(ミッション3)で使用する予定の新型機、「シリーズ2ランダー」(月着陸船)の概要を発表した。同ランダーは、極地を含む月の表側または裏側への着陸を行い、太陽光が届かない月の夜でも稼働することのできる初の民間ランダーの1つとなることを目指しているという。

シリーズ2ランダーは2024年前半の打ち上げを目指しており、これまで同社が開発したランダーのうちでも最大サイズとなる予定で、着陸脚を広げた状態で高さ約2.7m、幅約4.2mとなっている。

設計・製造・打ち上げは米国で行う予定だ。2021年6月には、ランダーの開発において重要なマイルストーンである基本設計審査(PDR)を完了。今後は、宇宙開発における数十年の経験と実績を持つ米国の非営利研究開発組織チャールズ・スターク・ドレイパー研究所および米・ジェネラル・アトミクス社との協力のもとで開発を進めていく予定としている(ispaceは2018年10月、チャールズ・スターク・ドレイパー研究所と2026年までの中長期パートナー契約を締結している)。

シリーズ2ランダーは、ミッション1とミッション2に使用されるシリーズ1ランダーよりも全体の大きさとペイロード設計容量が増やされており、月面には最大500kgの貨物などを輸送することが可能だ。月周回軌道への輸送であれば、最大2000kgまでの輸送を行える能力を備えている(実際のペイロード容量は、ミッション内容に合わせて変更される予定)。

複数のペイロードベイを備えたモジュール式のデザインを採用していることも特徴の1つで、それにより、政府系、民間、科学分野などの、より幅広い顧客のペイロードに最適化できる柔軟性を実現するとしている。

また着陸に関する技術的な面については、高精度着陸を実現する誘導・航法・制御システム(GN&Cシステム)を備え、月面上の岩石などの障害物を回避しながら目標地点へ着陸することを想定しているという。このGN&Cシステムは、アポロ計画の時から50年以上にわたる着陸技術に関する知見を持つチャールズ・スターク・ドレイパー研究所から技術協力を受けて開発が進められているとする。

推進系には、5基のメインエンジンと12基の姿勢制御スラスターが用いられるが、各ミッションにおいて最適な姿勢を維持するよう設計されているとする。また、エンジンが停止した場合でもペイロードを展開する能力を備えており、ミッションのリスクを軽減し、成功率を高める設計になっているという。

米・コロラドスプリングスにおいて、現地時間8月26日まで開催されている第36回スペース・シンポジウムにおいてシリーズ2ランダーは初公開され、同シンポジウムにはispaceのファウンダー/CEOである袴田武史氏、ispace technologies,U.S.(米・コロラド州デンバー)のカイル・アシエルノCEO、そして開発を担当するランダー・プログラム・ディレクターのカーステン・オニール氏が参加。オニール氏は、SpaceX社でファルコンロケットの新型機導入をリードするなど、宇宙開発において7年以上のキャリアを持つ人物として知られる。

なお、このシリーズ2ランダーはNASA CLPSを始めとする、多様なミッションに対応することを目指しているという。シリーズ2ランダーの発表に合わせ、ミッション3のペイロードユーザーガイドの概要も公開されたほか、同社では開発の進捗に合わせ、今後さらに情報を更新していくとしている。

ispaceは現在、ミッション1とミッション2の準備を重点的に進めており、ミッション1に関しては、2022年後半に予定されている打ち上げに向けて主要な試験を終え、独・アリアングループの施設でランダーのフライトモデルの最終組み立てが行われているところだという。ミッション1のランダーには、UAEドバイの政府宇宙機関であるMBRSC、JAXAおよびさまざまな商用を含むペイロードの搭載が予定されているが、ミッション2のランダーは引き続きペイロードが搭載可能であり、現在多様な顧客との交渉を進めているという。

  • シリーズ2ランダー

    シリーズ2ランダーのイメージ (C)ispace(出所:ispace Webサイト)