東北大学は8月24日、ロケットエンジンの数値計算結果と実験データを定量的に比較することが可能な新手法「SMART」を開発し、これにより実験で比較的容易に得られる火炎の位置を特定するために利用されている「OH*発光」に対して、数値計算結果を定量的に比較することが可能になったと発表した。
同成果は、東北大 流体科学研究所エネルギー動態研究分野の森井雄飛助教、Federica Tonti氏(論文主著者)を始めとするドイツ航空宇宙センター(DLR)の研究者7名が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、燃焼分野で最も権威があるとされる学術誌「Combustion and Flame」に掲載された。
ロケットエンジンやジェットエンジン開発の課題の1つの「燃焼振動」がある。燃焼振動は一度発生してしまうと、燃焼器を破壊するような過大な圧力変動が発生したり、燃焼器を溶損させるような過大な熱伝導を引き起こしたりする原因となることが知られている。
シミュレーションの高精度化も、実際の燃焼時の詳細なデータが不足しているため、進んでいないのが現状だという。また、実際の燃焼実験で詳細なデータを取得できない背景には、ロケットエンジンの燃焼が高温高圧という条件があるためで、実際に測定できるデータが限定されてしまっているためだという。例えばH-IIAロケットの第1段のメインエンジン「LE-7A」の場合、噴射炎は3000℃にも達するため、至近距離で噴射炎の詳細な動きを高速度撮影するといったことは難しいのが実情である。
しかし、燃焼振動の解明に向けて数値モデルを改良し、より信頼性の高いシミュレーション結果を導き出せるようにすることが求められており、そうした背景から研究チームは今回、燃焼実験で比較的容易にデータを得られ、火炎の位置を特定する方法として広く利用されている「OH発光」に着目することにしたという。OH発光は燃焼で重要となる化学反応に関わる現象で、火炎の位置を特定する方法として広く利用されているが、これまでは定量比較が困難だったという。
そこで今回の研究では、シミュレーションによって得られたOH発光に関わる結果に対し、実験で得られたOH発光と定量的な比較を可能とする新手法「SMART(Spectral Model and Ray-Tracing)」を開発。SMARTは、逆光線追跡により光線の経路を求め、その経路上の熱力学的特性を抽出し、対象(今回の研究ではOH*)となる波長域の発光・吸収スペクトルを計算。放射伝達方程式を解くことで「スペクトル放射輝度」を求めるほか、そのスペクトル放射輝度を積分することで全放射輝度の算出を可能としたものだという。
DLRで実施されたロケットエンジンのサブスケール実験の結果と、それを模擬したシミュレーションにSMARTを適用した結果の比較を行ったところ、従来法では火炎位置を定性的に比較することしかできなかったOH*発光に対し、定量的に比較できることが確認されたという。
なお、今回の成果について研究チームでは、OH*発光を定量的に比較することができるようになったことから、数値計算モデルの中でも重要な化学反応モデルに対する高精度化につながることが期待されるとしている。