名古屋大学(名大)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は8月19日、衝撃波に伴って化学反応による熱解放が行われることで、可燃性ガスを高速燃焼させることができる「デトネーション」現象を利用した次世代のロケット・宇宙機用エンジン「デトネーションエンジン」の宇宙飛行実証に成功したことを発表した。
同成果は、名大 未来材料・システム研究所および名大 大学院工学科の笠原次郎教授、同・松山行一特任教授、同・松岡健准教授、同・川﨑央助教、同・渡部広吾輝助教、同・伊東山登特任助教、同・後藤啓介特任助教、同・石原一輝大学院生、同・ブヤコフ・バレンティン大学院生、同・野田朋之大学院生、同・秋元雄希氏、同・菊地弘洋氏、慶應義塾大学の松尾亜紀子教授、JAXA 宇宙科学研究所の船木一幸教授、同・羽生宏人准教授、同・竹内伸介准教授、同・山田和彦准教授、同・荒川聡氏、同・増田純一氏、同・中尾達郎氏、室蘭工業大学(室蘭工大)の中田大将助教、同・内海政春教授、ネッツの中村秀一社長、同・豊永慎治氏、同・原田修氏、同・河野秀文氏、同・山本文孝氏、同・川本昌司氏、同・東野和幸氏、明治電機工業の味田直也氏、同・神藤博実氏、同・堂山一郎氏、同・加藤辰哉氏らの共同研究チームによるもの。詳細をまとめた論文は、飛行データの詳細解析後に学術誌にて公開される予定だ。
デトネーション(detonation)とは、爆発・爆発音という意味もあるが、今回の場合は燃焼現象のことを指すことから「爆轟」と訳されるという。しかし爆轟だとわかりにくいため、「極超音速燃焼」などとも呼ばれる。現象としては、衝撃波に伴い、化学反応による熱解放が行われるというものであり、その伝播速度は毎秒約2kmにもなるため、可燃性ガスを高速で燃焼させることが可能だ。地上付近での音速が毎秒約340mであることを考えると、およそマッハ5~6の速さということになる。
同燃焼現象を利用したデトネーションエンジンは、高い周波数(1~100kHz)でデトネーション波や圧縮波を発生させることにより反応速度を高めることで、ロケットエンジンの軽量化と高性能化を実現しようというもの。従来のロケットエンジンに比べ、デトネーションエンジンは「革新的」ともいえるほどだという。
ロケットや探査機などの宇宙用エンジンを高性能化しつつ軽量化を図ることができることから、デトネーションエンジンの実用化を目指した研究が盛んに行われている。今回、研究チームが開発したデトネーションエンジンシステムは、観測ロケット「S-520-31号機」のミッション部に搭載され、2021年7月27日午前5時30分にJAXA内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられ、第1段ロケットの分離後、宇宙空間にて推力500Nの「回転デトネーションエンジン」を6秒間作動させたほか、姿勢制御用である「パルスデトネーションエンジン」も2秒間の作動を3回、計画通りに正常に動作させることに成功したという。
このときに取得された画像、圧力、温度、振動、位置、姿勢などのデータはすべてテレメトリおよび展開型エアロシェルを有する大気圏再突入カプセル「RATS」の洋上回収によって無事取得された。
今回の宇宙飛行実証実験の成功により、デトネーションエンジンは、深宇宙探査用キックモーター、ロケットの初段・2段エンジンなどとして実用化に大きく近づいたという。既存のロケットエンジンがデトネーションエンジンとなることで、エンジンの軽量化と高性能化を同時に実現できるため、将来的にロケットのエンジンはデトネーションエンジンへと置き換わっていくことになるだろうと研究チームでは説明している。
またJAXAでは、今後デトネーションエンジン技術を深宇宙探査ミッションなどに展開することにより、探査機システムの小型軽量化、惑星間航行など、より遠くに、より自在な宇宙探査を実現できるように宇宙科学研究に役立てる計画としているほか、研究チームは2023年度に、さらに高性能化したデトネーションエンジンで、再びS-520観測ロケットによる実証実験に挑戦するとしている。
2021年8月23日訂正:記事初出時、加藤辰哉氏のお名前を誤って果糖辰哉氏と記載しておりましたので、当該部分を訂正させていただきました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。