食欲をそそる香りが人気の、蜜入りリンゴ。その蜜の部分が、細胞内の圧力や、果実内の水の流れが鍵となって形成されることが分かった、と愛媛大学などの国際研究グループが発表した。蜜部分にアルコール類などがたまって芳香を高めていた。リンゴ生産の工夫にもつながると期待される。

品種「ふじ」などのリンゴの蜜は、秋口に気温が下がってできるが、その仕組みはよく分かっていなかった。そこで研究グループは蜜入りリンゴの果実について、細胞内の圧力と詳しい成分を同時に分析する独自の手法と、溶液の浸透圧の2つの計測法を使って調べた。外側の蜜のない部分(N)、真ん中の蜜部分(W)、その間の境界部分(B)の3カ所を比べた。

その結果、細胞内の圧力が外側から蜜に向かって低く、この向きに水の流れが生じていることが分かった。蜜のないリンゴでは逆に、外側の圧力がわずかに低いという。蜜や境界部分の細胞内で発酵代謝が著しく進み、香りを放つ揮発性物質のアルコール類やエステル類ができて高濃度にたまっていた。蜜部分の細胞の隙間には揮発性物質がたまり、外側から水が流れ込んでいた。蜜部分の糖度は低いという。

蜜のでき方に関する従来の研究では、細胞内の溶質のうち不揮発性物質しか測れない浸透圧計測法「蒸気圧法」が多用されてきた。研究グループは、これでは蜜部分の浸透圧が過小評価されるとみて、揮発性物質も含めた浸透圧が分かる「凝固点降下法」も活用。2つの計測結果にずれが生じ、水の流れがあることを突き止めた。

  • alt

    蜜入りリンゴの分析結果。蜜部分では細胞内の圧力(細胞膨圧)が低いこと、水が動きにくい(水ポテンシャルが低い)ことなどが分かった(愛媛大学提供)

蜜部分が透き通って見える理由も分かった。ここには細胞の隙間に水やアルコールがたまって空気の層がなく、光が乱反射しないためという。これに対し外側の普通の果肉には空気の層があって不透明に見える。これは普通の氷が透明で、削って空気が入った「かき氷」が白く見えるのと同じ原理という。

  • alt

    蜜入りリンゴの模式図。蜜のない外側(右)から蜜部分(左)へと水の流れがある。蜜部分の細胞内の圧力(白い矢印)は低い。細胞の隙間には、蜜や境界部分ではエタノール(EtOH)などが集まっているが、外側では空気の層(エアスペース)がある(愛媛大学提供)

高温でコメが白濁する要因など、研究グループのこれまでの成果がヒントになった。愛媛大学大学院農学研究科の和田博史教授(植物生理学)は「実際の農業生産に役立つ助言や方向性を打ち出せるよう、研究を進めていきたい」と述べている。

愛媛はミカンの産地として知られるが、同大は温暖化も念頭に、暖地でのリンゴ栽培の研究などで成果を上げてきた。

研究グループは愛媛大学、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)、アルゼンチン・ブエノスアイレス大学で構成。成果は園芸学の国際専門誌「ホーティカルチャーリサーチ」に4日に掲載され、愛媛大学などが6日発表した。

  • alt

    細胞内の揮発性物質の濃度。Bは蜜入りリンゴの境界部分、Wは蜜部分。N(B)とN(W)は比較のために調べた蜜なしリンゴの、それぞれ相当する部分(愛媛大学提供)

関連記事

キャベツ、いよかん、タマネギ…野菜や果物、捨てず建材に大変身

ハチドリの甘味受容体進化の謎を解明