広島大学は8月19日、同大学の研究者らが参加する大規模国際共同研究グループ「COVID HUMAN GENETIC EFFORT(CHGE)」が38か国から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者5857例、健常者3万4159例の検体を収集し、サイトカイン「I型インターフェロン(I型IFN)」に対する中和抗体の保有状況について調査を実施したところ、COVID-19による死亡例および80歳以上の最重症例は、I型IFNに対する中和抗体を約20%という高頻度で保有することが判明したと発表した。
また、COVID-19の軽症者がI型IFNの中和抗体を保有する割合は70歳未満で0.18%、70歳以上で約4%(70~79歳が1.1%、80歳以上が3.4%)と低く、同中和抗体を保有することがCOVID-19重症化のリスク因子になる可能性があることも合わせて発表された。
CHGEはCOVID-19重症化のメカニズムの解明を目指した国際共同研究グループで、広島大大学院 広島大学大学院医系科学研究科小児科学の岡田賢教授、同・江藤昌平大学院生、同・津村弥来研究員、広島大大学院 医系科学研究科 疫学・疾病制御学の田中純子教授らの研究チーム、東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 発生発達病態学分野の森尾友宏教授、同・感染制御部の貫井陽子准教授らの研究チーム、米・ロックフェラー大学のJean Laurent Casanova氏、仏・イマジン研究所のPaul Bastard氏(責任者)らの研究チーム、そのほかの研究チームによって結成され、合計173人の研究者・大学院生らが参加している。今回の研究の詳細は、「Science Immunology」に掲載された。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染しても、その患者の多くが軽症、ないしは無症状で経過することが知られている。その一方、5~10%の患者は重篤な経過を取ることから、重症化リスクを持つ患者を適切に選択して早期に治療介入を行うことが大切と考えられている。
CHGEが取り組んでいるのは、COVID-19重症化のメカニズムの解明で、これまでの研究からCOVID-19に対する感染免疫にI型IFNが重要な働きを果たすことを報告してきた。I型IFNは、細胞間でやり取りされる多様な生理活性を持つタンパク質である「サイトカイン」の1種で、ウイルス感染によって産生され、強力な抗ウイルス活性をもたらすことを特徴とする。
実際にCOVID-19の最重症例(987例)と、無症状・軽症例(663例)に対してI型IFNに対する自己抗体の測定が行われたところ、最重症例での保有率が約10%(101人/987人)であるのに対し、無症状・軽症例での保有率は(0人/663人)だったという報告が行われている。
この知見は、COVID-19の重症化リスクを知る上で重要で、社会的にもインパクトがある知見だとCHGEは考察。そこで、この先行研究を大規模な追試により検証する必要があると判断し、今回の研究が実施されるに至ったという。
今回の研究では、38か国よりCOVID-19患者5857例および健常者3万4159例の検体を収集し、I型IFNに対する中和抗体の測定が実施された。その結果、COVID-19最重症例のうち13.6%(そのうち80歳以上では21%)が、死亡例のうち18%が、I型IFNに対する中和抗体を保有することが判明したとする。
さらに、海外では70歳以上の健常者(未感染者)の約4%が、同中和抗体を保有していることも判明したほか、並行して行われた国内での調査からは、COVID-19未感染の健常者のうち0.3%(1000人中3人)がI型IFNに対する中和抗体を保有することが確認されたとしている。
今回の研究から、COVID-19死亡例・最重症例ではI型IFNに対する中和抗体の保有頻度が高いことが示されたことを受け、現在、国内におけるCOVID-19症例の検体の収集を進め、同中和抗体の保有状況の検討が実施されているところだと研究チームは説明しており、将来的に、COVID-19感染者に対する同中和抗体の迅速な測定を実現することで、発症早期に重症化リスクの予測や、それに応じた治療法の選択につながることが期待されるとしている。