胃がんは治療成績や生存率が向上しているが、スキルス性の胃がんは例外で治療が難しい。そのスキルス胃がんに特徴的な遺伝子異常を見つけた、と国立がん研究センターと慶應大学の研究グループが発表した。がん細胞を狙い撃ちする既存薬での効果が期待できるという。
スキルス胃がんは胃壁や胃の組織にしみ込むように進行し、通常の胃がんと異なり胃壁に判別しやすい病変を作らない。このため内視鏡検査でも発見が遅れがちで、ほとんどは進行がんの形で見つかる。また進行が速く、がん細胞は悪性度が高い「低分化型」。発見時には既に腹膜などに転移していて、多くの場合手術は不可能で治療成績が悪い。
国立がん研究センターなどによると、スキルス胃がんは、胃がん全体の5~10%を占める。5年生存率はいくつかの統計があるが、いずれも10%前後で、まれに手術可能例でも20%未満とされる。早期がんから進行がんまでを含めても70%を超える胃がん全体の数値を大きく下回る。発がんの仕組みなど、詳しいことは未解明で治療法は確立していない。膵臓がんなどとともに「難治がん」と呼ばれ、対策ががん研究上の重要課題だった。
同研究センター研究所の間野博行・所長兼細胞情報学分野分野長や、慶應大学医学部病理学教室の金井弥栄教授らの研究グループは、スキルス胃がんに特徴的な症状である「腹膜播種(はしゅ)」によって腹水がたまった患者98人の腹水からがん細胞を採取し、遺伝情報を網羅的に調べる「全ゲノム解析」を行った。
その結果、細胞増殖に関係する遺伝子の異常が解析対象患者の半分から見つかり、その遺伝子異常は7種類あることが判明。スキルス胃がんの発症に染色体の構造異常が大きな役割を果たしていることが明らかになった。
研究グループは次に、見つかった遺伝子異常7種類のうち3種類の遺伝子異常がある細胞株を実験用マウスの腹部に接種。その上でがん細胞の表面にあるタンパク質などを狙い撃ちにする既存の「分子標的薬」を経口投与した。すると、がん細胞の増殖が抑えられたり、腹膜播種が消えたりした。
間野所長ら研究グループは、スキルス胃がん患者の約25%で既存の分子標的薬の効果が期待できるとしている。今後スキル胃がん用の分子標的薬を含め、これまでなかった治療薬の開発研究を続けるという。研究成果は17日に米医学誌ネイチャー・キャンサー電子版に掲載された。
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