慶應義塾大学(慶大)は8月13日、新生児の「線状IgA水疱性皮膚症」において、病気を起こす原因である「IgA抗体」が母親の母乳内に存在することを発見したと発表した。

同成果は、慶大医学部 皮膚科学教室の天谷雅行教授、同・江上将平共同研究員、同・山上淳専任講師(現・東京女子医科大学 准教授)らの研究チームによるもの。詳細は、米学術誌「JAMA Dermatology」にオンライン掲載された。

「線状IgA水疱性皮膚症」は、表皮と真皮の間の境界部(表皮真皮境界部)に結合する自己反応性のIgA抗体を介して、水疱・びらんを引き起こす稀な疾患として知られている。小児または40歳以上の成人に起こる病気だが、新生児でもこれまでに世界で11例の報告があり、皮膚のみならず粘膜気道にも病変が見られ、気道閉塞など致死的な病態を引き起こすことも確認されている。

新生児では抗体産生が未熟なため、新生児自己免疫性皮膚疾患では、母体の血液中に存在する自己抗体が胎盤を移行して病気を引き起こす例が多い。しかし新生児線状IgA水疱性皮膚症では母体の血液中に病原性IgA抗体は見つかっておらず、その由来が不明だった。

今回の研究では、線状IgA水疱性皮膚症の患児の母親の血液内には皮膚抗原に結合するIgA抗体は認められなかったという。そのため、皮膚に存在するIgA抗体が、患児母の血液からの移行でなく母乳を介した移行によるものと考察。そこで、母乳内のIgA抗体を精製し、ヒト皮膚検体を用いて間接蛍光抗体法を実施したところ、真皮側の抗原に結合するIgA抗体が母乳中に存在することが確認されたという・

  • 新生児線状IgA水疱性皮膚症

    蛍光抗体法を用いた病原性IgA抗体の証明(矢印箇所)。(A)患児の病変皮膚で、表皮真皮境界部に線状にIgA抗体が結合している。(B)患児血清内にヒト表皮真皮境界部(真皮側)に結合するIgA抗体が存在している。(C)患児母の母乳内にもヒト表皮真皮境界部(真皮側)に結合するIgA抗体が存在している (慶大プレスリリースPDF)

また、患児皮膚を用いてIgA抗体の「J鎖」(粘膜に分泌されるのに必要な抗体の構成タンパク質で、IgA抗体では分泌型に結合している)に対する免疫染色を行ったところ、患児皮膚に結合しているIgA抗体が、成人線状IgA水疱性皮膚症で見られる血液中の血清型IgA抗体ではなく、母乳などの体液内に存在する分泌型IgA抗体であることが判明。母乳由来のIgA抗体が患児皮膚に結合し、病気を引き起こしていることが証明されたという。

  • 新生児線状IgA水疱性皮膚症

    J鎖に対する免疫染色による分泌型IgA抗体の証明。(A)患児皮膚ではJ鎖陽性(分泌型)のIgA抗体が皮膚基底層に結合している。(B)成人の線状IgA水疱性皮膚症の症例で結合しているIgAは、J鎖陰性(血清型) (慶大プレスリリースPDF)

今回の結果を受けて研究チームでは、新生児線状IgA水疱性皮膚症では、速やかに母乳栄養を中止することで患児の重症化を防げることが期待されるとしている。また、新生児自己免疫疾患の発症メカニズムとして母乳による「受動免疫」(自分以外の個体から生成された抗体によって得られる免疫)があることが新たに明らかにされたことも今回の研究成果としている。