大阪府立大学(府大)、近畿大学工業高等専門学校(近大高専)、高輝度光科学研究センター(JASRI)、科学技術振興機構(JST)の4者は8月11日、「テルル化ゲルマニウム」の電子構造を精密制御することにより、室温付近の「熱電変換出力因子」を、既存材料の最大2倍に増大させることに成功したと発表した。
同成果は、府大大学院 理学系研究科の小菅厚子准教授(JSTさきがけ研究者兼任)、同・奥友洋大学院生、同・久保田佳基教授、近大高専の舩島洋紀准教授、JASRIの河口彰吾主幹研究員らの研究チームによるもの。詳細は、材料物理学が題材の学術誌「Materials Today Physics」に掲載された。
現代社会は多くのエネルギーを消費しているが、廃熱としてロスが生じている。こうした廃熱のうち、特に、室温付近のものは廃熱温度分布依存性により存在量が多いことが知られているが、それらの多くは小規模かつ希薄に分散しているため、熱電発電(環境発電)技術以外では回収が難しいという。
なお熱電発電技術は、扱う温度域によって進展具合が異っており、室温付近で高い熱電特性を示す「室温熱電材料」の開発はあまり進んでおらず、約半世紀前に発見された既存材料を超えるものが、ほとんど開発されていない状況だという。
そうした中で研究チームは今回、これまでの研究では250~600℃で高性能を示す熱電材料として知られていた「テルル化ゲルマニウム」(GeTe)の熱電性能のエネルギー変換効率を測る尺度の1つである熱電変換出力因子を、室温~150℃において増大させることに成功したという。
この性能向上の要因についての詳細な調査が行われたところ、GeTeを「テルル化アンチモン」(Sb2Te3)と混合させて、完全に均一な固相となる「固溶体化」させたことがポイントであることが判明。これによって生じる、これまで熱電性能に寄与することが知られていた価電子バンドに加えて、新しい価電子バンドのバンド端が非常に狭いエネルギー領域で縮重する、「バンド端縮重」に起因することを、実験と計算から解明したとする。
なお、今回開発されたGeTe固溶体化試料は、今回の研究と同様の簡単な試料作製プロセスにおいて作製された、室温既存材料「テルル化ビスマス」(Bi2Te3)と比べ、室温~150℃の温度範囲で最大2倍の大きさとなる熱電変換出力因子を示すことが大きな特徴だという。また、ナノ粒子を使った微細組織の最適化などを行うことで、さらなる熱電性能の向上の可能性もあるとしているほか、希少金属のビスマスの代わりに資源量が約30倍多いゲルマニウムを用いることでなされているため、省資源化戦略にも貢献すると研究チームでは説明している。
今回の研究で確認された高性能化の原理をそのほかの材料系に適用することで、従来は室温熱電材料の探索対象から外れていた材料群から、新しい室温熱電材料が発見される可能性もあり、室温熱電材料の開発が加速度的に進むことが期待されるとも研究チームでは説明している。