いろいろな意味で暑い2021年の日本の夏。連日30℃を超す日々が続き、ハンディ扇風機を片手に外出する人も多く見受けられるようになってきた。

歩きスマホのように、画面を見て、周りを見ない状況ができるわけではないので、歩きながら顔に扇風機の風を当てること自体に問題があるわけではないが、やはり片手がふさがると不便、ということで首にかけて利用するネッククーラーも近年、外出の際の選択肢になってきているようだ。

そうしたネッククーラーを電動工具を手掛ける京セラインダストリアルツールズが発売した。そこには京セラが長年携わってきた自動車向け部品で培ってきた品質、耐久性に裏打ちされた技術が盛り込まれているという。

その最たるものが同社が15年以上の年月をかけて手掛けてきたペルチェモジュールだとする。基板の片方で熱を吸収し、もう片方で放熱するという、いわゆるペルチェ素子を活用したものだが、同社のペルチェモジュールは、円柱状の独自形状を採用した半導体素子と銅性の基板を採用することで、応力集中を緩和し、長期耐久性能を向上させたほか、素子外周面をコーティングすることで、結露水による腐食に対する耐性を向上させており、車載レベルの信頼性を確保したとする(もともと同社のペルチェモジュールは車載向けが主な用途で、シートやハイブリッド車のバッテリーの温度調整などで活用されてきた背景がある)。

  • 京セラのペルチェ
  • 京セラのペルチェ
  • 京セラのペルチェ素子の概要と特長 (資料提供:京セラ)

現在、自動車業界はCASEという言葉に代表されるように、100年に1度の大変革期を迎えている。自動車の電動/電子化が進めば、エンジンからモーターへと置き換わるように、メカトロニクスで構成されていた部分がエレクトロニクスへと置き換わる可能性がでてくる。そうなると、京セラが手掛けてきた車載向け部品が採用される範囲が限られてくる可能性も出てくる。そこで、近年では、そうした自動車で求められる厳しい品質基準をクリアした部品・技術をベースに新たな市場の開拓を進める方針を掲げており、環境・エネルギー、通信、医療・ヘルスケアなど、幅広い産業分野に向けた製品の開発を進めてきているとのことで、今回のネッククーラーもそうしたアプリケーションの1つとして開発されたものだとする。

  • モバイルネッククーラー「DNC5000」

    京セラインダストリアルツールズが2021年6月より発売を開始したモバイルネッククーラー「DNC5000」のパッケージ。半分に折りたたまれているので意外とコンパクト

このモバイルネッククーラー「DNC5000」のペルチェモジュールの冷却板はアルミニウムを採用。首の左右の後ろ側を冷やす構造となっており、3段階の風量を生み出す独自設計の小型ファンを組み合わせて利用する仕様となっている。

  • モバイルネッククーラー「DNC5000」
  • モバイルネッククーラー「DNC5000」
  • モバイルネッククーラー「DNC5000」
  • モバイルネッククーラー「DNC5000」
  • モバイルネッククーラー「DNC5000」の外観。真ん中の銀色部分がペルチェモジュールと連動した冷却板。風量は電源ボタンを押すことで順次切り替わる。手前のファンから外気を取り込み、ネッククーラー上部のスリットから顔に向けて風を送るほか、冷却板の背面には排気のためのスリットが見え、おそらく取り込んだ風をペルチェモジュールの冷却に利用して、そのまま排出する仕組みとなっているとみられる。また、電源ボタンの長押しで運転を停止させることができる(ただしバッテリーを接続した段階で運転が開始されてしまうので、その点は注意が必要)

今回、本体を借りる機会をいただいたので、実際に首にかけて試してみたが、8月に入って東京の外気温も35℃前後が続く状態ということもあり、首の頸動脈付近に当てられた冷却板が冷たすぎて痛い、という感覚はまったくなかった。むしろ、小型ファンから吹き上げてくる風量を最大(強)にしても、暑い風しか出てこないため、風の存在をあまり感じられず、冷却板の冷たさが実に心地よい感覚で、ファンを取り外して、もう少し冷却板を大きくしたモデルが欲しいと思うほどであった(ファンにはペルチェの排熱処理の役割もある模様なので、次世代モデルが出たとしてもファンがなくなることはないものと思われる)。同社では、体感温度として、外気温に対し、約マイナス10℃の温度を感じられるようにしている、ということであったが、35℃を超える気温の中で、この冷たさは実にありがたいものと感じられた(感じ方は人それぞれなので、温度制御機能が盛り込まれると、良いのかもしれない)。

ちなみに重量は約180gと軽量だが、バッテリーは搭載していないので、別途、接続して利用する必要がある。これについて同社では、人が首に掛けて長時間使用しても、疲れないように可能な限りの軽量化を行った結果だという。確かに軽量で良いのだが、欠点としてはやはり電源ケーブルを垂らす必要があり、かつそれが右側のみである、という点。ズボンのポケットにバッテリーを入れて、そこにつなげる、というイメージなのだと思うが、ケーブルが長いとどうしても状況によっては、ネッククーラー本体がそっちに引っ張られ、首からずれてしまう、といったことがあった。男性の場合、胸ポケットがあるシャツを着る機会なども多いと思われ、そういった場合、左側にケーブルがあった方が、そうしたズレが生じる機会は減るのではないか、という印象を受けた。

将来的には技術革新で、バッテリー内蔵式のモデルも出てくると思われるが、これからもしばらくは猛暑日、酷暑日が続くことを考えると、現行モデルを買っても損はないという印象はある。特にバッテリー交換式にしたことで、手軽なバッテリー交換で、長時間駆動を維持できるということを踏まえると、道路工事の作業員や、農業、林業といった長時間、屋外で何らかの業務に携わる人が身体を冷やすための方法の1つとして選択肢に上がっても良い気はする性能であると感じた。

なお、京セラでは、今回のペルチェ素子に関する技術のみならず、自動車部品向けとして開発された、高品質・高信頼性をベースとしたさまざまな技術の横展開を今後も積極的に進めていくとしており、そうした部品や技術を活用するパートナー企業、ひいてはそうしたパートナー企業が提供する製品を活用するユーザーに高い価値を提供していければとしている。

2021年8月17日14時10分訂正:記事初出時に記載しておりました「空調服」は、セフト研究所及び空調服の登録商標であることから、当該部分を削除・訂正させていただきました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。