糖尿病による筋肉量低下を加齢が加速させる可能性、広島大などが確認

広島大学と帝京大学は8月2日、2型糖尿病が筋肉量低下をもたらすことの検証を行ったところ、年齢がその関係性を加速させる可能性を明らかにしたと発表した。

同成果は、広島大大学院 先進理工系科学研究科 理工学融合プログラムの鹿嶋小緒里准教授、広島大大学院 医系科学研究科 地域医療システム学の松本正俊教授、帝京大 医学部地域医療学の井上和男教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

先進国を中心に平均寿命は延びる傾向にあり、2015年には約12％だった高齢者の割合が2050年には約22％と、およそ2倍になることが予測されるなど、高齢化は日本だけの問題ではなくなってきている。

年齢を重ねるごとにさまざまな疾病を発病するリスクが高まることが知られており、糖尿病もその1つとされている。糖尿病は筋肉量低下をもたらし、また筋肉量低下が糖尿病発症のリスクになるという双方向の関係、負のスパイラルが複数の先行研究から知られるようになってきているが、高齢者の糖尿病に関する研究は限られており、年齢が糖尿病と筋肉低下の関係にどのように影響を及ぼすかについてはよくわかっていなかったという。

そこで、研究チームは今回、1998年から2006年に「ゆうぽうと健診センター」が関東で実施した健診データを利用し、6133人の高齢者(65歳以上)を対象に、各年齢群における糖尿病患者の筋肉量低下に関する評価を実施することにしたという。ただし、筋肉量を大規模に測定することは難しいため、代価指標として「血清クレアチニン値」を利用したという。

評価の結果、年齢の増加とともに、糖尿病群と非糖尿病群のどちらも血清クレアチニン値が増加していくが、糖尿病群は非糖尿病群より、男女とも低いクレアチニン値(低い筋肉量)が確認されたという。

また、早期高齢者(65～69歳)、中期高齢者(70～74歳)、後期高齢者(75歳以上)の群で、それぞれ糖尿病患者および非糖尿病患者におけるクレアチニン低値(25％tile以下、男性:61.9μmol/l、女性:53.0μmol/l)になる確率を見てみると、どの年齢群でも非糖尿病群と比較して糖尿病群で有意に低クレアチニン値になる確率が高いことが判明したほか、その関係性は各年齢群で異なり、特に後期高齢者でより観測されたという。

• 各年齢群別の糖尿病群とクレアチニン低値(=体筋肉量減少の指標)の関係(非糖尿病群が比較対照群、オッズ比が高いほどクレアチニン低値になりやすい) (出所:共同プレスリリースPDF)

これらの結果より、加齢は糖尿病と低クレアチニン値(筋肉量低下)の関係に影響を及ぼすことが示唆されたという。これまで、低筋肉量の人の糖尿病発症リスクおよび、その逆の関連性(糖尿病発症による筋肉量低下)が示唆されていたが、今回の研究および先行研究から、年齢がさらに両方向のサイクルを加速させる概念モデルの提唱につながったとしている。

• 糖尿病・体筋肉量減少サイクルの加齢促進モデル (出所:共同プレスリリースPDF)

なお、今回の研究では、横断研究デザインのため因果関係の証明とはならないが、後期高齢者の糖尿病患者は筋肉量低下のリスクがより高くなることが示唆されたことから、加齢そのものは現代医学では止められないが、筋肉量低下を防ぐ取り組みは、提唱したサイクルによる糖尿病への進展を予防し、健康寿命延伸を含めた健やかな老後(サクセスフル・エイジング)の達成にも重要だとする。また、体筋肉量低下以外にも糖尿病を起こす要因は多岐にわたるため、それらに着目することもこのサイクルを防ぐために欠かせないとしており、今後も継続して、関連したテーマの研究を進めていく予定としている。