宮城教育大学、東京学芸大学(学芸大)、浜松学院大学、愛知学泉短期大学(学泉短大)、常磐短期大学(常磐短大)、京都大学(京大)の6者は8月2日、自発的な表現を重視した保育プログラムを通して、幼児の「実行機能」(自分の行動をコントロールする能力)を育めることを明らかにしたと共同で発表した。
同成果は、宮城教育大の香曽我部琢准教授、学芸大の水﨑誠准教授、同・直井玲子研究員、浜松学院大 短期大学部の永岡和香子教授、学泉短大の本多峰和准教授、常磐短大の鈴木範之准教授、京大の森口佑介准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、神経科学と教育を扱った米学術誌「Trends in Neuroscience and Education」に掲載された。
子どもにとって自分の行動をコントロールすることは難しい。こうした自分の行動を制御する能力は、心理学や神経科学の研究領域では「実行機能」と呼ばれており、これまでの研究から、3歳から5歳頃までに発達することが分かっている。
この幼児期の実行機能、近年のさまざまな研究成果から、児童期の学力や友人関係、成人期の年収や社会的地位、健常状態などを予測することが示されたことから、世界的に注目されるようになっているという。
そのため、幼児期に実行機能が低い子どもを支援する、さまざまなプログラムが提案されるようになってきた。しかし、そのほとんどがコンピュータを通した訓練を用いたもので、子どもへの負担が大きいことから、子どもに適したプログラムの開発が急務とされている。
そこで今回、研究チームが注目したのが、実行機能を育むためには自発性が重要であるという点だった。これまでの研究から、子どもの自発性を重視する子育てをする養育者は、子どもの実行機能を促進しやすいことが示されていることから、子どもの自発的な表現を重視する保育プログラムによって、実行機能を育めるのではないかと考察。これらのプログラムに参加した幼児と、通常の保育プログラムに参加した幼児に、プログラム前後に実行機能の課題が与えられ、その課題の成績がどのように変化するのかが検討された。
研究には218名の3~4歳児が参加。自発的な表現を重視するプログラムとして今回は、特にドイツ人作曲家カール・オルフ(1895~1982)が提唱した音楽教育「オルフ・シュールヴェルク」の理念に基づく表現遊びのアイディアと、英国人の劇作家で演出家のキース・ジョンストン(1933~)らが創始した演者同士が物語を創造していく即興演劇「インプロ」を取り入れた保育プログラムの2種類が開発された。いずれのプログラムも、幼児が自発的に音楽や演劇を表現できることを目指したものだという。
幼児は、ランダムに、オルフ・シュールヴェルクグループ、インプログループ、通常保育グループに割り当てられ、これらのプログラムを毎日30分、週に5日間、6週間実施し、このプログラムに参加した幼児と通常の保育プログラムに参加した幼児の実行機能課題の成績の変化が調べられた。
その結果、オルフ・シュールヴェルクグループとインプログループの幼児は、通常保育グループの幼児と比べて、作業記憶課題の成績と抑制機能課題の成績が高いことが判明。特に、3歳児においてこの効果が強いことが示されたとするが、切り替え課題の成績には、グループ間に有意な差はなかったともしている。
今回の研究においては、自発性を育む保育プログラム効果が示されたが、オルフ・シュールヴェルクとインプロのプログラムが確実に実行機能を育むかというと、そうとは限らず、今回の実験では6週間という短期的な効果しか見ていないため、長期的にどのような効果があるかを検討する必要があるとしている。
また、今回は自発性を育む保育プログラムと通常の保育プログラムが比較されたが、これらにはモチベーションの差がある可能性があるため、解釈には慎重になる必要があるともしているほか、今回は行動課題だけだったため、脳活動などを調べる必要があるともしている。さらに、効果があった子どもとそうではなかった子どもがいたことから、そのような個人差がなぜ生まれるのかを調べる必要もあるとしている。