世界レベルの体操選手は競技の技に関わる脳の領域を結ぶネットワークが一般の人と異なる特徴があることが分かった、と順天堂大学の研究グループが発表した。世界大会で活躍した選手10人の脳画像を解析したユニークな研究成果で、トレーニング効果などの評価に役立つ可能性があるという。
スポーツ科学の分野では、優れた成果を上げる選手特有の鋭敏な体感や精密な運動制御能力、状況を瞬時に的確に判断する能力などと脳機能との関係解明に注目が集まっている。
順天堂大学の研究グループは、同大学大学院スポーツ健康科学研究科の冨田洋之准教授(2004年アテネ五輪体操男子団体金メダリスト)、医学研究科放射線診断学の鎌形康司准教授、青木茂樹教授、脳神経外科学の菅野秀宣先任准教授、スポーツ健康科学研究科の和気秀文教授、内藤久士教授らで構成。同大学の研究グループは昨年11月、世界レベルの体操選手の脳は運動機能などに関わる領域の体積が一般の人より大きいことなどを明らかにしている。
脳では、無数の神経細胞が集まった数多くの領域がつながって複雑な情報伝達ネットワークが形成されている。冨田准教授らの研究グループは今回、優れた体操選手の脳のネットワークの特徴を解明するために、世界大会に入賞歴のある現役の18~22歳の男子日本人体操選手10人と、体操競技経験がない16~22歳の男性健常者10人を対象にMRI(磁気共鳴断層撮影)で脳の3次元画像を撮り、違いを比較した。また選手については難易度を競う競技成績(Dスコア)と脳のネットワークを構成する神経接続の特徴を解析した。
その結果、体操選手は、一般の人と比べて、感覚・運動や記憶・自己認識、注意、視覚といった体操競技に密接な関わりのある機能を司る脳領域の間の神経接続が強くなっていた。さらに、これらの神経接続のうち、いくつかの接続は床運動、平行棒、鉄棒のDスコアと有意な相関関係があることが分かった。
具体的には、床運動は「空間認識、平衡・姿勢感覚、運動学習」などを司る脳領域を結ぶ神経接続と、また平行棒は「視覚運動知覚、手の知覚を含む感覚運動」などを司る脳領域を結ぶ神経接続と、さらに鉄棒は「視空間認識、エピソード記憶、意識、視野内の物体認識」に関連する脳領域を結ぶ神経接続と、それぞれ有意な相関があったという。
これらの結果から研究グループは、世界レベルの体操選手は体操競技と密接に関連する脳機能を支え、一般の人には見られない特殊なネットワークが構築されていると結論付けた。
さらに同グループは、体操選手のネットワークの特徴が長期間の厳しいトレーニングによるものか、優れた選手が生まれつき持っているものかはまだ分からないとしつつも、脳のネットワークを評価することにより、体操競技の種目別の適性判断やトレーニング効果の客観的評価に役立つ可能性があるとしている。
研究成果は7月10日付の米医学専門誌「ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス・リサーチ」電子版に掲載された。
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