アトピー性皮膚炎では、白血球の一種の「樹状細胞」が免疫のバランスを維持して悪化を抑えていることがマウスを使った実験で分かった、と宮崎大学などの国際研究グループが発表した。従来は反対に、樹状細胞が発症や悪化に関わっていると考えられてきた。成果は治療法の開発につながる可能性があるという。
アトピー性皮膚炎は強いかゆみを伴う湿疹が起こるアレルギー疾患で、慢性的に良くなったり悪くなったりを繰り返す。皮膚のバリアー機能が低下するなどして、本来は無害な異物「アレルゲン」が入り、不要な免疫応答「アレルギー反応」が起こる。発症には遺伝や体質、環境、生活などが関わるとされる。先進国で患者が急増し、国により最大で小児の20%、成人の3%が罹患(りかん)。皮膚の適切なケアが大切で、ステロイドなどの塗り薬に加え、炎症誘発物質の働きを直接抑える抗体医薬も登場したが、根本的治療法は見いだせていない。
異物が体に入ってくるとまず、樹状細胞が捕食して免疫応答が始まる。異物がアレルゲンの場合の樹状細胞の役割は不明な点が多く、アトピー性皮膚炎を発症、悪化させていると考えられてきた。
そこで研究グループは、遺伝子操作で樹状細胞を欠いたマウスを作り、健康なマウスと比べる実験を行った。その結果、樹状細胞がないと血液中で、アレルギーの発症や悪化を促すさまざまな白血球が増えていることが判明。炎症誘発物質や免疫細胞を増やす物質、アレルギーの原因の抗体「免疫グロブリンE」もそれぞれ増加した。
また皮膚では、アレルギーを引き起こす遺伝子の発現が進む一方、皮膚のバリアー機能を働かせる遺伝子の発現が低下していた。樹状細胞を欠くことでアレルギー症状が生じることが、免疫学的に分かった。
さらに、マウスの耳にアトピー性皮膚炎を起こす薬を塗り、健康なものより樹状細胞がないものの方が症状が悪化することを確認。皮膚のバリアー機能が壊れ、悪玉菌である黄色ブドウ球菌の定着が進み、症状が悪化することも確かめた。
樹状細胞を欠いたマウスでアトピー性皮膚炎を調べたのは、この研究が初めてという。樹状細胞がないとアレルギーは発症しないと考えられてきた。しかし実際には、これまで中心と考えられてきた免疫応答とは別の応答が促進されてしまい、むしろ症状が悪化することが分かった。樹状細胞はアトピー性皮膚炎を発症、悪化させるのではなく、免疫のバランスを維持することで悪化を抑えている。
研究グループの宮崎大学医学部の佐藤克明教授(免疫学)は「当初は、樹状細胞が発症や悪化にどの程度、関与しているかを調べようと考えていた。逆の結果になり驚いた。仕組みを詳しく解明すれば新たな標的を見いだし、完治に向かう治療薬の開発を進められそうだ」と述べている。
研究グループは宮崎大学、カザフスタン・ナザルバエフ大学などで構成。成果は国際免疫学会連合の学術誌「フロンティアズ・イン・イミュノロジー」に7月27日に掲載された。
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