新型コロナウイルスの中でも感染力が高いインド由来のデルタ型変異株(デルタ株)が首都圏で爆発的に広がり、全国的にも感染が急拡大して収まる気配がない。29日の東京都の新規感染者は初めて3000人を超えた28日よりもさらに増えて過去最多を更新。全国では1万人を初めて超え、累計では90万人を突破してしまった。感染の中心は20~40代の活動的な人や働き盛り。専門家は相次いで「これまでに経験したことのない感染拡大」「医療逼迫(ひっぱく)が深刻化する」と指摘するなど、強い危機感を表明し、そろって新たな強い対策の必要性を求めている。

  • alt

    国立感染症研究所が分離したインド由来のデルタ型変異株の電子顕微鏡画像(国立感染症研究所提供)

厚生労働省や東京都によると、東京都の29日の新規感染者は3865人で、前日の3177人より増えて4000人に迫っている。首都圏を中心に感染者は全国的に増え、29日深夜までに1万693人を数えた。感染者は8月に向けさらに増える勢いだ。政府は7月12日に東京都に4度目となる緊急事態宣言を発令したが、同月初めには2000人以下を下回っていた国内の新規感染者数は中旬に3000人を超え、22日に5000人を超えた。首都圏の急拡大に引っ張られる形で28日には9000人を超えていた。

厚労省専門家組織の28日の会合で示された資料によると、27日までの1週間の新規感染者は人口10万人あたり東京が88.63人。59.33人だった前週より1.49倍に増えていた。このほか、福岡県が2.20倍、沖縄県が2.15倍、大阪府が1.52倍。首都圏だけでなく全国的な感染急拡大が続いていた。そして全国の新規感染者がまだ確定しない29日の夕方の段階で既に1万人を突破した。こうした事態を重視した政府は同日夜、緊急事態宣言の対象地域に埼玉、千葉、神奈川、大阪の4府県を追加する方針を決めた。30日中に正式に決める。

厚労省のほか、多くの専門家は感染者の急拡大の背景には感染力が高いデルタ株のまん延があるとみている。国立感染症研究所は首都圏での新規感染者の70%以上をデルタ株が占めると推計し、その割合は今後さらに増加し、全国にまん延するのは確実とみている。

感染者が最も多い東京都の状況について、厚労省の専門家組織は28日の会合で「20~40代を中心に急速な感染拡大が続いている」と分析。一方、ワクチン接種が進んでいる65歳以上の新規感染者はわずか約3%にまで低下している。これらのことから、東京都だけでなく全国的にワクチン接種が終わらず活動性が高く、言わば働き盛りの若い人や壮年層を感染力が高いデルタ株ウイルスが襲っている状況とみている。

同組織はまた、重症者も40~50代を中心に増加しているとし、「これまでに経験したことのない感染拡大」「熱中症などで救急搬送増加するなど一般医療の負荷も増加する中でこのままの状況が続けば、通常では助かる命も助からない状況になることも強く懸念される」などと強い危機感を示した。

政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は、28日の衆院内閣委員会の閉会中審査で「医療の逼迫(ひっぱく)が既に起き始めているというのがわれわれの認識だ」と述べた。参院内閣委員会の閉会中審査でも29日、「今の最大の危機は社会一般の中で危機感が共有されていないことだ。共有されなければいずれ医療逼迫は深刻化する」「今の感染を下げる要素があまりない」などと発言し「今まで以上に明確な強いメッセージを出してほしい」などと訴えた。

また、日本感染症学会理事長で、厚労省専門家組織メンバーでもある舘田一博・東邦大学教授は同組織会合に先立って28日午後、日本記者クラブで記者会見した。この中で現在東京都に発令されている緊急事態宣言について「効果は限定的」などと指摘し、(感染拡大を食い止めるためには)これまでの宣言内容とは異なる何らかの強い対策が必要との認識を示した。

  • alt

    記者会見で東京都や全国の感染者急増傾向について説明する舘田一博教授(日本記者クラブ/舘田一博教授提供)

舘田教授はまた、ワクチン接種率は60%程度で頭打ちになるイスラエルや米国のデータを示し、日本も同様の傾向になる可能性を指摘して接種率向上が課題である、などと述べた。このほか、ワクチン接種後はデルタ株に対しても少しは効果が減衰するものの確実に中和抗体ができるデータも示して接種の重要性を強調している。

  • alt

    日本記者クラブ(東京都千代田区内幸町)で28日、オンラインで記者会見する舘田一博教授 (記者会見動画から/日本記者クラブ提供)

関連記事

新型コロナ、感染力強いインド型変異株が拡大傾向 「置き換わる可能性高い」と厚労省専門家組織

変異株、26都道府県の399人から検出と厚労省集計 専門家は再拡大を懸念