30年あまり運用されてきたハッブル宇宙望遠鏡が故障したものの、1カ月かけ完全復旧した。米航空宇宙局(NASA)が明らかにした。搭載された観測用コンピューターが異常停止したが、原因を特定し必要なシステムをバックアップに切り替えた。17日には観測を再開し、NASAは「科学機器は完全に機能する」と復活を宣言。設計寿命15年を大幅に超えた運用がさらに続くこととなった。
NASAの資料によるとハッブルは、搭載した科学機器を制御する「ペイロードコンピューター」が6月13日に突然停止した。「メインコンピューター」が信号を受信できなくなり、科学機器が自らを保全するための「セーフモード」に切り替わり観測が止まった。地上の望遠鏡チームは、当初に原因とみられた劣化したメモリーモジュールを遠隔操作でバックアップに切り替えたが、解決しなかった。
さまざまな検証の結果、ペイロードコンピューターなどに電力を安定的に送る「パワーコントロールユニット」に問題があることを特定。望遠鏡チームは7月15日、パワーコントロールユニットを含む上位のユニットをバックアップに切り替える作業を行い成功した。科学機器の運用が再開し、17日には作用し合う2つの銀河や、3本の腕を持つ珍しい渦巻き銀河などを撮影した。故障の間に中止された観測は改めて計画される。
望遠鏡チームの技術者らは管制室のあるNASAゴダード宇宙飛行センター(米メリーランド州)のほか、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による制限のためリモートで作業した。望遠鏡が造られたのは30年以上前。当時の設計の詳細などを知る退職者や、他のチームに異動した人などの「ハッブルの卒業生」の協力を得て作業を進めた。米宇宙望遠鏡科学研究所のケネス・センバッハ所長は「チームの献身に感銘を受けた。ハッブルは今後、さらに多くの科学的発見で私たちを驚かせ続けるだろう」とした。
宇宙望遠鏡は地上の望遠鏡と異なり大気の影響を受けないため、天体を高精度に観測できる。1990年に打ち上げられた米欧のハッブル宇宙望遠鏡は、上空約550キロを周回する主に可視光観測の反射望遠鏡。長さ13.1メートル、重さ11トンの筒型で、主鏡の直径は2.4メートル。銀河や太陽系外惑星、誕生直後の宇宙などの観測などで大きな成果を上げてきた。
ハッブルの名称は、宇宙が膨張しているとの結論を出した米天文学者、エドウィン・ハッブル(1889~1953年)に由来する。後継機として米欧とカナダが開発し、赤外線観測に特化した「ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡」の打ち上げが年内に予定されている。
宇宙望遠鏡などの人工衛星は通常、いったん打ち上げると直接手を加える修理が不可能。これに対しハッブルでは、米スペースシャトルで向かった宇宙飛行士が5回にわたり、修理や機器の交換を行っている。シャトルが2011年に廃止され、その後は遠隔作業のみ可能となっている。
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