DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するための根幹となる、データの利活用を促進する組織、人材スキル、現場の声を紹介する「Yahoo! JAPAN DATA Conference '21 夏」が7月28日にオンラインで開催された。その中から、ヤフーが考えるデータ利活用の未来について語られた、オープニングセッションの模様をお届けする。
データ人材育成のためのヤフーの3つの取り組みとは?
2019年以前は一部の人だけに着目されていたDXだが、2020年末からは検索件数が著しく増加しており、この言葉がより多くの方に広がっていることを感じる。しかしDXは多くの人にとって、これまで手作業で行われてきたアナログ業務をデジタル化することであり、業務の効率化や生産性を向上を図る点ばかりが注目されがちなのだという。
一方で、チーフデータオフィサー(CDO)を務める 谷口博基氏はDXには攻めと守りの両側面があると考えている。同氏によると、デジタル技術やデータの利活用によって営業効率を向上することや、新たな事業を立ち上げること、顧客満足度を向上させることが攻めのDXであり、不正検知や審査業務の自動化、業務効率化は守りのDXとして捉えられるとのことだ。攻めと守りの両面の技術を活用し、継続的に業務改善を推進することこそがDXであると説明した。
また、同氏は多くの企業でデータを利活用する重要性を理解していながらも、そのほとんどが人材不足や組織作りの点を課題として挙げている点に触れて、「企業のデータ利活用を促進するには、必ずしもデータサイエンティストの採用強化によるデータ人材の確保だけが必要なのではない」と述べた。
データ人材は、データサイエンティストなどのアルゴリズムを創造する人材、データエンジニアなどのアルゴリズムを普及させる人材、非データ専門職などのアルゴリズムを活用する人材の3種類に大別できるとして、この3種類のデータ人材は、組織内にバランスよく存在する必要があるとしている。
同社が取り組む、データ人材育成のための環境づくりのための施策が3つ紹介された。1つ目はデータサイエンティストに限らず、全ての職種の社員がデータを活用できるようになるためのデータ教育である。2つ目が全社を対象にデータ活用の良い事例を表彰するデータアワード、そして3つ目が、社外のコンペティションを受けた社員の成績に応じて報奨する制度だ。
さらに同社は今後、社内でのデータ活用だけではなく、日本全体でのデータ活用を推進していくことを狙っている。DATA SOLUTIONを2019年に提供開始し、地方公共団体を含めて他社のデータ活用を支援してきたが、さらに今年度中に、新サービスとして「DS.INSIGHT Persona」のリリースを控えている。
同サービスは、ブラウザ上で性別や年代、未婚/既婚や職業などのセグメントを指定することで、そのセグメントに属するユーザーがどのような興味関心を持つのかを分析するもの。統計的データをもとにして、多面的なペルソナを可視化できるとのとこだ。同サービスを利用することで、効率的にペルソナを理解できることに加えて、ユーザーの理解をスピーディに行えるようになるとしている。
Cookieレス時代にどう備えるべきか?
34カ国を対象にした調査の結果から、データの利活用が進んでいる企業と遅れている企業では、約60%の収益差が生じていることが明らかになっている。一方で、日本国内に着目すると、大半の企業がデータ活用に取り組んでいながらも、成果を感じている企業はわずかに限られているとのことだ。
また、約9割の企業がデータを取り扱う際の懸念点として、自社または提携組織のデータ管理に不安を感じているそうだ。さらに、同様の調査からは、会社が持つデータを1台のPCで管理している企業が11%、数台のサーバで管理している企業が55%であることが明らかになっている。技術統括本部 テクノロジーインテリジェンス室 鎌田篤慎氏は、今後データの利活用が進むと、大半の企業でデータ不足となる可能性を指摘した。
同氏は発表の中で、国内ではデータサイエンティストを1人も雇用していない企業が大半であることに触れて、企業の事業成長や顧客理解を阻むデータ利活用の課題として、データ関連技術の不足、データ自体の不足、人材不足の3点を挙げた。
ヨーロッパやカリフォルニア州などを中心に、プライバシーに配慮した規制を求める声が高まっており、近年ではGAFAをはじめテック企業がCookieレスへと舵を切り始めている。米AppleはITP(Intelligent Tracking Prevention)をリリースするなど、プライバシー優先での技術開発を進めている。同様に米Googleも、GoogleChromeでの3rd Party Cookieのサポートを段階的に廃止するとして、Privacy Sandboxのローンチを表明している。
同氏は今後のデータ利活用について「今後は、GAFAなどBig Tech企業の取り組みに他のアドテク企業も追従する動きがある。特定の顧客情報を追従することが困難な時代に突入している」と述べた。
こうした時代において、今後データの利活用を進める企業がとるべき施策の1つとして、これまでよりも広告の精度が下がる懸念があるとしながらも、Google ChromeやSafariなどプラットフォーマーの仕組みを利用するべきであると述べた。
そのほかに取れるアクションとしては、統計処理されたユーザー情報の活用があるという。鎌田氏は、特定の一人ひとりのユーザーを追跡するのではなく、類似した行動をとる集団ごとにIDを割り当ててデータを取得するソリューションを紹介した。
近年注目されている施策に、国勢調査やアンケートなど、ユーザーの同意を前提としたデータであるZero Party Dataが挙げられた。自社が持つ1st Party DataとZero Party Dataを組み合わせることで、3rd Party Cookieのデータを使用しないアクションが着目されているとのことだ。
発表の最後に同氏は、新型コロナウイルス感染症の流行の影響を受けて、IT領域に先行投資をしていた企業とそうでない企業では、収益に5倍もの差が生じていると述べた。また、この格差は今後さらに拡大していくと予測しているという。
今こそ求める・求められるデータ人材とは
データソリューション事業本部 事業戦略部長 野口真史氏は、企業におけるDXについて、事業のDX(攻めのDX)と組織のDX(守りのDX)の2側面から説明した。これらの2つの側面は相反するのではなく、企業としてのDXを推進するためのアプローチの違いであり、地続きなものであるとしている。
事業のDXを促進する際には、顧客体験の向上や提供価値を高めるためにデータを活用するべきだとのことだ。自社に蓄積されたデータを活用して新たなビジネスモデルを創造し、顧客体験を向上させることで、顧客が増加するため、さらなるデータが蓄積され、データの利活用が促進できるとのことだ。このサイクルを高速化することが事業のDXの本質だという。
一方で、組織のDXはデータドリブンな文化を醸成するための手段としている。自分と同僚、上司と部下、営業と顧客など、異なる立場の人が効率よく、かつ齟齬なくコミュニケーションを取るための共通言語としてデータを活用するべきだという。同氏は「お互いの思い描くイメージが異なったまま、業務を進めることによる弊害は非常に大きい。データを、お互いの認識を合わせるための共通のものさしとして活用してほしい」とコメントした。
同氏はDXにおけるデータ人材として、「創る人」「活かす人」「つなぐ人」が事業と組織のそれぞれのDXに必要であると説明した。事業のDXにおいては、プロダクトマネージャーなどデータを活用した事業を作り上げる人が、組織のDXにおいては、データを整理するための基盤やBIツールの導入に携わる人材が「創る人」にあたる。
創る人が生み出した事業や、導入したBIツールから得られる情報をもとにして、実際の業務を遂行するのが「活かす人」である。同氏は事業と組織の両側面のDXにおいて、「つなぐ人」の存在が重要であると述べる。「創る人」の経験や知識を「活かす人」につなげて、業務を円滑に進められるように調整する人材が、今後企業がDXを進めるうえで重要なポイントであるとのことだ。