国立遺伝学研究所(遺伝研)、岡山大学、京都府立医科大(KPUM)、富山大学、佛教大学、米・カリフォルニア大学デイビス校は7月27日、妊娠中や更年期などの女性ホルモンが変動する時期に、女性のかゆみの感じやすさが変化する仕組みを、雌ラットを用いた実験で解明したと発表した。
同成果は、NIG マウス開発研究室の高浪景子助教を中心とした国際研究チームによるもの。詳細は、米科学雑誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。
ヒトを含む生物にとって、「かゆみ」や「痛み」などは不快な感覚だが、生きていくためには(健康を保つためには)なくてはならない大切なシグナルと考えられている。女性の場合、かゆみの感じ方の変化が大きい時期として、女性ホルモンが変動する妊娠中や更年期において、かゆみの感じ方が変わったり、不快なかゆみを経験したりすることが知られているが、なぜかゆみの感じ方が変わるのか、その原因は不明であったという。
そこで研究チームは今回、女性ホルモンが変動する時期にかゆみが生じることに着目し、女性ホルモンがかゆみの感受性を変化させるのではないかと考察。主要な女性ホルモンである「エストロゲン」と「プロゲステロン」のかゆみに対する影響を、実験動物のラットを用いて調査することにしたという。
実験は、エストロゲンとプロゲステロンの濃度を低下させた「対照群」、卵巣摘出後にエストロゲンを補充した「エストロゲン群」、卵巣摘出後にプロゲステロンを補充した「プロゲステロン群」、エストロゲンとプロゲステロンを両方補充した「エストロゲン・プロゲステロン群」の4群に分けて実施。皮膚にかゆみを引き起こしたところ、エストロゲン群ではかゆみの指標となる後ろ足による引っ掻き行動が増加し継続したのに対し、ほかの群では増えないことが確認されたという。
また、近年の研究から脊髄に発現する「ガストリン放出ペプチド(GRP)受容体」が、痛みとは別にかゆみを独自に脳に伝えることが報告されていることを受け、エストロゲンがGRP受容体に影響を及ぼすのではないかと考え、調査を行ったところ、かゆみ刺激が与えられた際に、エストロゲン群では対照群に比べ、GRP受容体神経の活動が上昇することが判明したほか、GRP受容体の働きを抑えるとエストロゲンにより上昇した引っ掻き行動が抑えられることも確認されたという。
さらにエストロゲン群では、かゆみ刺激によって脊髄のGRP受容体神経の活動が上昇することが、生体内電気生理学解析によって観察され、エストロゲンがエストロゲン受容体を介して、GRP受容体の存在量や活性を変える可能性が示唆されたとしている。
今回の成果により、女性における不快なかゆみ増強の原因となる、脊髄における神経の仕組みの一端が解明されることとなり、今回の成果が治療法の開発に寄与することが期待されるとする一方で、脊髄から脳に伝えられた女性特有のかゆみシグナルにより、かゆみをどのように感じているのかはいまだ不明だとしており、今後は、かゆみを伝えている脊椎から脳にかけての機能的な結びつきと、女性ホルモンがどのようにかゆみの「感じ方」を変えているのかなどを解明するための研究を進めていくとしている。