東芝は7月21日、「第13回東芝技術サロン」を開催し、カーボンニュートラル社会実現に資する同社グループの技術やソリューションと、これまでの取り組みなどを発表した。同社は2021年5月14日に公表した「今後の経営方針について」において、カーボンニュートラルを加速させる技術・ソリューションの中でも、再生可能エネルギー、省エネルギー、新技術、エネルギーマッチングの分野への先行投資方針を示している。
同社グループ企業の東芝エネルギーシステムズ 取締役常務 兼 統括技師長の四柳端(よつやなぎただす)氏は、『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』(経済産業省)を引用しつつ、「現状、CO2の部門別の排出割合は電力由来が37%と最も多く、産業(25%)、運輸(17%)が続く。当社グループの有する技術と研究成果を生かして3分野のCO2を削減し、社会全体のカーボンニュートラルを実現したい」と意気込む。
カーボンニュートラル実現に貢献する具体的な取り組みとして、今回のサロンでは東芝エネルギーシステムズ 送変電ソリューション技師長の小坂田昌幸氏が再生可能エネルギー・送配電分野を、同社水素エネルギー技師長の佐藤純一氏が水素エネルギー分野の技術やソリューションなどを紹介した。
「タンデム型」と「プロべスカイト」、2つの新型太陽電池を開発
再生可能エネルギー・送配電分野においては、新型太陽電池の開発に着手する。従来型の太陽光パネルは自家消費向けに高効率化を目指す方向性にあるが、東芝では高効率と軽量化を両立する「タンデム型太陽電池」と低コストで軽量化を実現する「ペロブスカイト太陽電池」の開発を進める。「ペロブスカイト太陽電池」ではメニスカス塗布技術を用いることで、フィルム型の太陽電池を作成できるという。フィルム型の太陽電池が実現すれば、ビルの曲面や低耐荷重な工場の屋根、ビニールハウスの屋根など、設置場所の拡大が期待できる。
変電所や発電所の設備に使用されるGIS(ガス絶縁開閉装置)には、一般的にはSF6というガスが採用されているが、もし漏出した場合、地球温暖化に影響を与えかねないため、世界的に代替ガスの使用の検討が進む。東芝エネルギーシステムズは明電舎と共同で自然界に存在するガスを用いたGISを開発。2022年度中に、量産化体制を確立し、製品化を目指す。
再生可能エネルギーの買い取り価格を国が保証するFIT制度に加え、2022年からは電力需要に応じて変動する市場価格にプレミアムを上乗せして買い取られるFIP制度が導入される予定だ。そうした動向を踏まえ、東芝はVPPのサブスクリプションサービス「Toshiba VPP as a Service」を2020年12月に提供開始した。同サービスは一般家庭や事業所などの電力消費量や天候、日照、電力市場の価格変動など、さまざまなデータを収集・分析して需要予測や発電量予測、蓄電池の制御などを行うもの。
同サービスには東芝の系統技術で培った予測技術が、需要予測、発電量予測、市場価格の変化に応じた蓄電池の制御などに用いられており、オペレーションを通じて学習・改善が継続されている。小坂田氏は、「最終的には、再エネ事業者と需要家のエネルギーマッチングを目指したい。電力の最適な需給の実現はカーボンニュートラルの実現にも貢献できると考える」と語った。
船舶・鉄道など、移動体用燃料電池の実用化に着手
水素エネルギー分野について、東芝エネルギーシステムズ 水素エネルギー技師長の佐藤純一氏は、水素を再生可能エネルギーに活用する“水素社会”の実現に向けた官民の機運の高まりを指摘。「余剰電力を水素ガスに変えるP2G(Power to Gas)ソリューション、CO2資源化のためのP2C(Power to Chemicals)ソリューション、そしてP2Gで得た水素を使うための燃料電池の活用が今後加速するはず」と予想する。
P2Gソリューションの領域では、東芝エネルギーシステムズを含めた民間企業5社により「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」の実証実験が行われている。同施設は太陽光発電で得た電力から水素を製造・貯蔵し、福島県内の3つの電量電池に供給する。また、FH2Rでは水素を使った電力系統の需給バランス調整の実証も行われている。
P2Cソリューションでは、高効率なカーボンリサイクルの実現を目指す。カーボンリサイクルではCO2をCO(一酸化炭素)に電気分解し、水素と合成させて燃料や化学燃料を製造する。東芝エネルギーシステムズは、カーボンリサイクルのコアとされる電気分解の工程を効率化すべく、大型CO2電解モジュールの開発・製品化を進める。また、燃料の効果的に利用するビジネスモデルをANA(全日本空輸)など5社と検討開始し、供給サプライチェーンの上流から下流まで一気通貫した検討を行う。
空気中の酸素と水素を反応させて電気を発生させる燃料電池の開発にあたって、東芝エネルギーシステムズは、2017年に100kw(キロワット)の定置用燃料電池システムを商品化した後、小型・大容量・効率化を図ってきた。2021年には初期モデルからサイズを60%、重量を50%削減したモデルを上市する予定だ。さらに、100kwの燃料電池を10台連結させた1MW(メガワット)の燃料電池システムの開発も進めているという。
「1MWシステム1台あたりの定格発電出力は200kw~1000kwを予定しており、複数台をマルチユニット化することで2MW~10MWの発電出力が可能となるシステム構成を検討している」(佐藤氏)
一方で、船舶や鉄道などHeavy duty 向けの移動体用燃料電池システムの開発にも着手する。2020年度からはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託を受け、多用途型燃料電池モジュールの研究開発をスタート。同年度からはNEDOの助成を受け、高出力燃料電池搭載船の実用化に向けた実証事業も始まり、東芝エネルギーシステムズを含めた民間企業5社が2024年の実証運航を目標にプロジェクトを推進している。