イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)・ジャパンは7月20日、大規模ジェットを有する「電波銀河」と呼ばれる種類の銀河のうち、地球に最も近くに位置する「ケンタウルス座A」の中心部を従来にない解像度で撮影し、中心部にある超大質量ブラックホールの位置を正確に特定、大規模ジェットがどのように生まれているのかを明らかにしたと発表した。
同成果は、独・マックスプランク電波天文学研究所のミヒャエル・ヤンセン氏(オランダ・ラドバウド大学兼務)が率いるEHTの国際共同研究チームによるもの。米・マサチューセッツ工科大学ヘイスタック観測所に所属する日本人研究者の秋山和徳氏や国立天文台の田崎文得氏も参加している。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。
世界中の8つの電波望遠鏡を連携させ、地球の直径と等しい仮想の電波望遠鏡を用いて、地球から5500万光年離れたM87銀河の中心に位置する超大質量ブラックホールの直接観測に成功したことで知られるEHT。強力な電波を発している天体は得意とする観測対象であり、そうした、電波での観測において宇宙で最も明るく輝いている天体の1つが、ケンタウルス座の方向1200~1600光年の距離にある銀河「NGC5128」だという。
NGC5128は1826年に銀河として発見されたが、それから100年以上後の1949年、天の川銀河の外で強力な電波を発している「銀河系外電波源」(電波銀河)であることが判明。結果、「ケンタウルス座A」という別名を持つに至った。
ケンタウルス座Aはこれまで、電波を中心に、赤外線、可視光線、X線、そしてガンマ線と、幅広い波長帯の望遠鏡によって観測されており、さまざまなことがわかってきた。その1つが、ケンタウルス座Aの中心には、太陽の約5500万倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在することである。
宇宙に存在する全銀河の中心には、超大質量ブラックホールが存在すると考えられている。天の川銀河の中心にも、太陽質量の約400万倍の「いて座A*(エースター)」があることがわかっている。また、EHTが史上初の直接観測に成功したM87銀河の超大質量ブラックホールは約65億倍と、かなりの“大型”といえる。
今回の観測は、M87の超大質量ブラックホールの観測と同様に、世界中の8つの電波望遠鏡が協力し、地球の直径と同サイズの仮想電波望遠鏡を構築した上で2017年に、波長1.3mmという、従来にない解像度で行われたもの。今回撮影されたケンタウルス座Aのジェットは、これまでの高解像度観測と比較して、10倍の周波数、16倍の解像度で画像化されたという。
その結果、ケンタウルス座Aのブラックホールの周辺を、1光日よりも小さいというこれまでで最も詳細なスケールで観測に成功。ケンタウルス座Aのブラックホールから噴出する巨大なジェットが生まれている根元の領域を、直接観測することに成功したとする。
超大質量ブラックホールは、その非常に強い重力で自分が主として君臨する銀河を重力で支配している。当然、超大質量ブラックホールに近いほど重力は強力になり、ガスや塵などの物質を引き寄せていく。そして、それらの物質は超大質量ブラックホールの周囲に形成された降着円盤へと落ち込んでいく。
降着円盤内で物質はすさまじい勢いで回転するため、通常なら物質はあまり超大質量ブラックホールには落ち込まないという。ところが、なんらかのきっかけでその回転速度(角運動量)が落ちて大量の物質が飲み込まれ、そのときに大量のエネルギーが解放される。そのエネルギーが、超大質量ブラックホールに落下寸前の物質の一部を食い止め、逆に遥か遠くへと吹き飛ばすほどのジェットを生み出していると考えられている。
天文学者はこのプロセスをよりよく理解するために、これまでさまざまなモデルを使って超大質量ブラックホール近傍の物質がどのように振る舞うのかを検証してきた。しかし、ジェットが中心部からどのように噴出して光の速さ近くまで加速するのか、そしてそれらが拡散することなく銀河を通り抜けてどうやって伸びていくのかは、まだあまりわかっていないという。
今回撮影された画像では、ケンタウルス座Aのジェットの中央部と比べて端の方が明るいことが確認された。この現象はM87など、ほかのジェットでも知られてるが、これほど顕著に見られたことはなく、メカニズム解明の大きなヒントになるという。
また今回撮影されたジェットについてはさらなる研究のため、その下流がより外側のジェットとどのようにつながるのか、今後新たな観測が行われる予定で、それによりジェットの噴出・加速のメカニズムを解明することを目指すしている。
さらに、より短い波長帯かつより高い解像度で今回撮影された領域を観測すれば、ケンタウルス座Aの中心にいる超大質量ブラックホールを直接撮影できる可能性があるともしているが、それを実現するには、直径が地球と同程度では不足のため、人工衛星に電波望遠鏡を搭載し、地球の直径よりもさらに大きな仮想電波望遠鏡を構成する必要があるとしている。