厚生労働省は19日、中外製薬が申請していた新型コロナウイルス感染症の「抗体カクテル療法」に使う新薬の製造販売を特例承認した。同日夜、田村憲久厚労相が明らかにした。2つのモノクローナル抗体医薬品を組み合わせ、重症化リスクがある中等症患者のほか、軽症の患者が対象となる国内初の治療薬になる。国内で使用が認められた薬は4種類目で、治療の選択肢が増えたことになる。

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    厚生労働省が入った中央合同庁舎第5号館(東京都千代田区)

厚労省の部会で承認された抗体カクテル療法は「カシリビマブ」と「イムデビマブ」と呼ばれる2つの抗体医薬品を使用する。米製薬企業リジェネロンが創薬し、2020年8月に同社とスイス製薬大手ロシュが開発、製造、販売を共同で実施すると発表。同10月にトランプ前米大統領にも投与したことで知られる。その後両社は同11月、米食品医薬品局(FDA)から治療薬として緊急使用許可を取得した。

中外製薬は、2020年12月に日本国内での開発と販売権を取得。今年6月29日に米国での臨床試験(治験)(第Ⅲ相)データや国内での初期段階治験(第I相)データを厚労省に提出し、審査を簡略化する特例承認を申請していた。

ロシュ社が3月に公表したデータによると、4000人以上を対象にした治験では、1200ミリグラム、2400ミリグラムの静脈内投与ともに、偽薬投与群と比べて入院または死亡リスクをそれぞれ70%、71%低下させた。投与から169日までのデータでは安全性に問題はなかったという。また、約800人を対象にした別の治験では偽薬と比べて有意にウイルス量が減少していたという。

厚労省によると、政府が中外製薬と供給契約を結んでおり、準備が整い次第、医療機関への配送を始める予定。国が責任を持って管理し、患者の費用負担は発生しないという。

中外製薬の奥田修社長CEOは、「新型コロナウイルスの流行は複数の変異株の出現により新たな局面を迎えており、一日も早い収束のためには、ワクチンによる新規感染の抑制とともに、感染者に対する治療選択肢の拡充が極めて重要です。(承認された薬の)速やかな供給に向け、日本政府や関連事業者と緊密に協働していきます」などとコメントしている。

日本国内でこれまでに、抗ウイルス薬の「レムデシビル」、重度の肺炎やリウマチなどの治療に使われてきたステロイド剤「デキサメタゾン」、関節リウマチなどの薬だった「バリシチニブ」と、3種類の薬が新型コロナウイルスの治療薬として承認されている。

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    中外製薬社屋の同社看板(中外製薬提供)

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