神戸大学は7月13日、第1波から第4波における、さまざまな重症度の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の血清中において、現在国内で広がっているアルファ株(B.1.1.7系統)、ガンマ株(P.1系統)、ベータ株(B.1.351系統)の3種類の“懸念されるべき変異株”を対称として、中和抗体についての定量的な調査を実施したところ、すべての感染者においてアルファ株に対する中和抗体が産生されており、ほかの変異型に対してもほとんどの感染者において中和抗体が産生されていることを確認したと発表した。
さらに、第4波においては、アルファ株に対する中和抗体が従来型やほかの変異株よりも高いことが明らかにされ、第4波においてアルファ株が優位になっていたことが示唆されることも合わせて発表された。
同成果は、神戸大大学院 医学研究科 附属感染症センター 臨床ウイルス学分野の森康子教授を中心に、兵庫県立加古川医療センターのスタッフも加わった共同研究チームによるもの。新型コロナウイルス関係論文は査読前にプレプリントとして登録と公開が推奨されている「medRxiv」に掲載された。ただし、現時点での論文は専門家による査読前のため、内容が変更される可能性があるとしている。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を引き起こす新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は感染性が高く、日本国内でもワクチン接種が進んでいるものの、しばらく感染拡大は収まらないと警戒している専門家も多い。
また、従来株から複数の変異株へと感染の主体が移ってきていることも分かってきているほか、SARS-CoV-2は重症度の高い人ほど中和抗体価も高いことがこれまでの研究から分かってきているが、変異型に対する具体的な中和抗体価については明らかになっていないという。
そこで研究チームは今回、日本の第1波から第4波における、さまざまな重症度のCOVID-19患者の血清を用いて、変異型(生ウイルス)に対する中和抗体価の詳細な解析を実施することにしたという。
具体的には、兵庫県立加古川医療センターを受診したCOVID-19患者の検体を用いて解析を実施。第1波(2020年3月~6月)より18人、第2波(2020年7月~10月)より20人、第3波(2020年10月~2021年2月)より23人、第4波(2021年3月~)より20人の新型コロナウイルス患者が選択され、計81人の患者血清が解析された。また患者の重症度によって無症状~軽症(26人)、中等症~重症(19人)、超重症(37人)のグループに分類して解析が行われた。
その結果、解析が行われた患者のすべてで、従来型とアルファ株で同程度の中和抗体価が認められたほか、ガンマ株でも99%(81人中80人)、ベータ株でも96%(81人中78人)と大半の患者が中和抗体を持っていることが確認された。一方で、この2つの変異株、特にベータ株はアルファ株に比べて中和活性が低い(中和しにくい)ことも判明したという。
また、第4波においては、アルファ株に対する中和抗体価が従来型を含めたほかのどの変異株よりも高い結果であることも確認。第4波が、アルファ株を中心に発生しており、その感染者ではアルファ株に対して強い中和抗体が産生され、ほかの変異型に対してもやはり同様に有効であることが示唆されているとしている。
今回の結果を踏まえ研究チームでは、従来型あるいはアルファ株に感染した患者はほとんどがアルファ株、ベータ株、ガンマ株に対しても中和抗体を持っていたことから、COVID-19回復者はほかの変異株への再感染あるいは重症化リスクも低い可能性が示唆されるとしているが、現在、中和抗体価がどれくらいあると再感染が防げるか、重症化を抑えることができるのかという点に関する直接的なデータはなく、今後追跡していく必要があるとしている。
また、第4波のアルファ株に感染したと思われる患者グループでは、アルファ株以外、特にベータ株には抗体価が低いことも明らかとなったとする。そのため、変異株への再感染のリスクをさらに正確に評価するために、今後はCOVID-19に対する中和抗体以外の免疫応答、たとえば免疫記憶の持続や細胞性免疫などに関しても詳細に解析することが必要であると考えられると研究チームでは説明している。