名古屋大学(名大)、電気通信大学(電通大)、京都大学(京大)、国立極地研究所(極地研)、東京大学、大阪大学(阪大)、金沢大学、東北大学の7者は7月13日、宇宙のさえずりと呼ばれる特殊な電波によって、「脈動オーロラ」と呼ばれる明るさが明滅するオーロラが発生したときに、オーロラを起こす電子よりも1000倍以上のエネルギーを持つヴァン・アレン帯の高エネルギー電子が高さ60km付近の中間圏にまで侵入することによって、中間圏のオゾンが10%以上減少することを発見したと発表した。
また、JAXAが運用しているジオスペース探査衛星「あらせ」と、北欧に設置されている欧州非干渉散乱(EISCAT)レーダー、およびオーロラ観測ネットワークによる国際共同観測と、今回開発されたシミュレーションを組み合わせた結果として今回の現象が実証されたことも合わせて発表された。
同成果は、名大 宇宙地球環境研究所(ISEE)の三好由純教授、電通大の細川敬祐教授、京大の栗田怜准教授、ISEEの大山伸一郎講師、国立極地研究所(極地研)の小川泰信准教授らを中心とした、国内11の大学・研究機関およびフィンランドの2つの研究機関の合計27人の研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
北極や南極地方に輝くオーロラは、宇宙空間から、温度に換算すると数千万度という強大なエネルギーを持った数KeVの電子が降り込み、高さ100km付近の窒素分子や酸素分子などと衝突して起こる発光現象として知られている。実はオーロラにはいくつかの種類があり、その中の1つに数秒の周期で明滅する「脈動オーロラ」と呼ばれるタイプが存在する。この「脈動オーロラ」は、宇宙のさえずりと呼ばれる「コーラス」という電波(周波数は数kHz程度)が、宇宙空間の電子を散乱させることによって起きていることが、ジオスペース探査衛星「あらせ」などの観測によって明らかになってきた。
一方、地球大気には、温度換算で数千億度という数MeVの高エネルギー電子が降り込んでくることもわかっている。この高エネルギー電子は、地球周辺に存在するヴァン・アレン帯(放射線帯)に存在する電子と考えられており、人工衛星の電子回路を破壊する上に、「キラー電子」とも呼ばれている。
研究チームはこれまで、「コーラス」電波によって「脈動オーロラ」を起こす電子と、ヴァン・アレン帯の高エネルギー電子が同時に大気へと降り込むことを観測しており、そこから中間圏に含まれる高度60~80km付近における大気の状態が変化することを推測していた。
そこで今回、「あらせ」、EISCATレーダー・オーロラ光学観測の宇宙と地上の国際共同観測、新開発のシミュレーションを連携させることで、「コーラス」電波、「脈動オーロラ」、「ヴァン・アレン帯電子」の関係、さらに「ヴァン・アレン帯電子」が大気に及ぼす影響を総合的に解明することに挑むことにしたという。
また併せて「コーラス」電波が電子を散乱させる様子を調べるシミュレーションも開発し、フィンランドの研究チームが開発した、電子によって中層および超高層大気の状態が変化する様子を調べるシミュレーションと組み合わされ、観測されたヴァン・アレン帯電子が降ってきたときに、中層大気で何が起きているかが詳細に分析された。
実際の観測からわかったことは以下の3点。「あらせ」による宇宙からの観測では2点、地上の観測からは1点が明らかとなったとする。
「あらせ」が高度約3万kmの宇宙空間で明らかにしたのが、以下の2点。
- 数千万度の電子によって、「コーラス」電波が発生する
- 発生した「コーラス」電波によって、数keV(脈動オーロラを起こす電子)から、ヴァン・アレン帯の数MeVの高エネルギー電子が地球に向かって散乱される
そして地上の観測では、以下の1点が明らかになったとした。
- 宇宙からの電子の降り込みによって、脈動オーロラ(高度100km付近で発生)が発生し、このときに脈動オーロラよりも低い高度(高度60km付近)までヴァン・アレン帯電子が降ってくる
一方のシミュレーションから明らかとなったのが、以下の2点。
- 「あらせ」が観測した「コーラス」電波と電子のデータを入力して、電波と電子の相互作用に関するシミュレーションを実施したところ、「コーラス」によって、数keVから数MeVと3桁以上の広い範囲のエネルギーを持つ電子が、一斉に大気へと降り込んでくることが判明
- EISCATレーダーが観測した実際に大気に降ってきた電子のデータを入力して、高度20kmから150kmまでの大気化学に関するシミュレーションを実施したところ、電子の降り込みに伴って、脈動オーロラが光る高さ100kmよりもさらに低い高度にまで電子が降り込むことにより、高度80km付近に存在するオゾンが10%以上減少することが判明
これらの結果から、宇宙空間で「コーラス」電波が発生すると、数k~数十keVの電子が、高度100km付近まで散乱されて脈動オーロラが発生。このとき、数MeVのヴァン・アレン帯電子が、高さ60~80km付近にまで散乱される。その結果、中層大気に顕著な化学反応が発生し、中層大気に含まれているオゾンが10%以上破壊されることが判明したという。これは、脈動オーロラが起きているときは、その下の高度においてオゾンの破壊が同時に進行していることを意味するという。
中間圏オゾンの破壊は、気候変化にも影響を及ぼすことが指摘されている重要な過程であり、今回の成果は、宇宙からの電子の降り込みが、中層大気、引いては気候変化にも影響を及ぼす可能性を示唆するものと研究チームでは説明している。
なお、今回脈動オーロラに伴うヴァン・アレン帯電子の降り込みが明らかにされたが、それがどのくらいの頻度で発生しているかはまだ明らかになっていないとのことで、今後の研究で、その頻度などが分かってくることが期待されるとしているほか、すでに脈動オーロラに伴うオゾン破壊の影響が、全球の大気に及ぼす影響を定量的に明らかにするための研究プロジェクトが、ISEEなどで進められていることから、今後、そうした知見から宇宙と地球大気のつながりの理解が進むことが期待されるとしている。