マクニカは7月14日、AIと脳科学の知見を組み合わせた技術を社会に実装し、オープンイノベーションを通じて新たな付加価値の創造によって、社会的な展開を推進するための組織としてBRAIN AI Innovation Lab. 通称「BRAIL(ブレイル)」を設立したことを発表した。Brain AIは、人間の脳とAIをつなぐ新たな取り組みであり、BrainとAIを掛け合わせた造語だ。
BRAILでは国内外の製品パートナー、大学、研究機関などと産学連携を行っていく。また、このオープンイノベーションを通じて、脳科学の活用方法や最先端の研究を基にした知見を共有し、社会実装に向けた新たなサービスの開発や運用を支援する。
同社の代表取締役社長 原一将氏はBRAILの設立にあたって開かれた記者会見の中で、同組織の設立の背景について「マクニカは『Life & Society』『Business & Economy』『Green & Earth』の3つのテーマに着目し、世界中から最先端のテクノロジーを見つけてソリューションに仕上げることで、社会課題を解決する。これらの3つのテーマには、共通したキーテクノロジーとしてAIがあるため、BRAILを設立することで、AIに脳科学の要素を取り入れてAIの可能性をさらに拡張し、社会実装を支援していきたい」と説明した。
同社は2019年12月に、最先端のテクノロジーとインテリジェンスをつなぎ、世界中の人々にとって幸せな未来社会を創ることを目指して、AIの専門組織であるAI Research & Innovation Hub 通称「ARIH(アリー)」を設立している。ARIHではこれまでに、累計600本以上の論文を調査し、社会課題に対するAI技術の実装を多数支援している。
このたび設立されるBRAILでは、ARIHの活動で得られたAIの知見と実績に「脳科学」の技術を取り入れて、AIが生み出す価値を高めていく。さらに同組織は将来的に、人の感性や心と社会との新たなつながりを提供することで、豊かな社会の実現を目指していく計画だ。
BRAILが提供する社会的価値は大きく3つあるという。1つ目は、同社がARIHでこれまでに経験してきた、300件というAIの社会実装の実績を持つ人材による支援が受けられる点。2つ目はまだ前例が少ない、脳科学とAIを組み合わせる取り組みにおいて、研究機関やパートナー企業とオープンイノベーションによる最先端の知見を共有できる点。そして3つ目が、脳とAIをつなぎ、社会課題の解決を推進していく点である。
BRAILプリンシパル 楠貴弘氏は同組織の将来像について「Brain AIの取り組みをどの領域で、どのような課題に活用できるのかを正確に把握するためには、調査や研究が必要になる。そうした調査や研究をBRAILが推進して、クリエイティブな価値を生み出す機会を増やしていくことで、豊かな社会の実現につなげたい」と述べた。
記者会見には、東京農工大学グローバルイノベーション研究院/知能情報システム工学科の⽥中聡久教授も出席した。同氏は脳科学とAIの連携に関する研究を続けており、特に医療脳波のAI診断についての研究を主としている。同氏はブレインテックの3つの要素を「脳神経科学」「AI技術」「社会実装」に分け、この3要素が同時に発展していく必要があると述べた。
一方でこれらの3要素の間には、デスバレーとも呼ばれる大きな溝があり、ブレインテックの分野が成長するためには、この溝を埋める必要があるという。そこで同氏は「BRAILはオープンイノベーションによって、ブレインテックを身近な存在にしてくれるはず。科学と社会の間にある大きな溝を埋めてくれることに期待している」とコメントを寄せた。
同会見にはInnerEye Ltd. CEO Uri Antman氏と、ヘブライ大学 認知神経科学 Leon Y Deouell氏も参加した。人間の認知を理解するために必要な学問は特定の領域だけではなく、多岐にわたる分野の研究が必要であることを理由に、AIと脳科学を組み合わせたソリューションの市場理解を高めるためにはBRAILのような組織が必要であると説明した。