国立長寿医療研究センター(NCGG)は7月8日、糖尿病患者で遺伝子多型が同定されている「インスリン受容体基質タンパク質2」の欠損変異が、2型糖尿病とともに認知機能障害を誘導することを明らかにしたと発表した。
同成果は、NCGG ジェロサイエンス研究センター 統合神経科学研究部の田之頭大輔研究員、同・王蔚研究員、同・田口明子部長、米・ハーバード大学医学部 ボストン小児病院のMorris White教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、生物学を扱った学術誌「Biochemical and Biophysical Research Communications」に掲載された。
インスリンは、すい臓から分泌されるホルモンで血糖値を一定に保つために働き、全身の糖の代謝を調節している。この作用経路であるインスリンシグナルの主要調節因子として知られる「インスリン受容体基質タンパク質2」(Insulin Receptor Substrate 2:IRS2)の欠損変異は、重篤な2型糖尿病の発症と早期致死を誘導することが過去の研究によって明らかにされている。
そのため、マウスを用いた実験でも早期致死に至ってしまうため、雄マウス成体の認知機能への影響について調べることができず、不明だったというが、研究チームの飼育環境下においては病態の進行が緩やかで早期致死が改善されたことから、若齢期の認知機能を観察することが可能となり、このマウスを用いた調査から、脳のエネルギー代謝障害と体温調節異常を伴い認知機能障害を示すことが見出されたという。
糖尿病では、エネルギー源である糖が血中にあふれた状態となってしまうため、細胞の中に糖が入って来ることができず、細胞はエネルギー不足に陥ると同時に、自律神経障害が合併して発症してしまう。また、認知症も発症以前より脳のエネルギー不足が進行し、自律神経症状の1つである体温調節障害が見られていたことから、糖尿病と認知機能障害には重複した病態が存在することが示唆されていた。そして今回の研究成果から、両疾患共通の病態基盤の1つとして、IRS2が関与している可能性があることが示されたという。
そのため研究チームでは今後、IRS2を介して糖代謝と認知機能の両者を調節する分子機構を明らかにすることにより、認知症の本質的な発症メカニズムの理解と有効な治療薬の開発へとつながることが期待されるとしている。