産業技術総合研究所(産総研)は7月9日、「透明酸化物電極」を有する透明有機デバイスにおいて、同電極の結晶化が性能向上に有利とする従来の予想を覆し、同電極の結晶化を阻害することで、性能が向上することを見出したと発表した。
同成果は、産総研 センシングシステム研究センター センサ基盤技術研究チームの末森浩司主任研究員らの研究チームによるもの。詳細は、応用物理学を扱う米学術誌「Applied Physics Letters」に掲載された。
有機デバイスは軽量かつ柔軟性が高いため、人体のような複雑な形状を有したものの表面など、さまざまな形状に合わせて設置できることから、次世代電子デバイスとして期待されている。また、窓などへの設置も考えられており、透明性も求められている。しかし、従来の有機デバイスは非透明であったため、さらなる応用発展に向け、透明化が求められている。
ただし、その実現には、透明電極を形成する過程で、デバイスの電気特性が低下してしまうという課題があり、難しいとされてきた。
産総研でも長年にわたり研究開発を続け、「透明電極/電荷注入層/有機薄膜/下部電極」というデバイス構造を持つ透明有機デバイスにおいて、透明電極を結晶化させることでデバイス性能の向上を試みてきたが、結晶化した透明電極を用いた場合、むしろデバイス性能が低下してしまうという、予想に反する結果が得られたという。
従来の常識では、結晶化が進むにつれてその電気伝導性が高くなるため、高い結晶性を有する透明電極の方が性能向上には有利と考えられていたが、なぜか性能が低下してしまう現象が確認されたことから、今回、その原因解析を実施。その結果、結晶化した透明電極を用いたデバイスにおいては、透明電極下の電荷注入層/有機薄膜界面にギャップが形成され、このギャップがデバイス内の電気伝導を阻害するために、性能を低下させてしまうことが明らかとなったという。
さらに、ギャップの形成を防ぐことを目的に、その形成メカニズムについての解析を実施したところ、結晶化した透明電極上には、直径数μm程度の粒子が生じることが確認されたという。この粒子の正体は、透明電極内の応力が緩和する際に形成されたもので、透明電極中の膜内応力を緩和するために膜が変形する際、その一部が表面から押し出されて粒子となっていたことが確認されたという。
一般に酸化物薄膜の膜内応力は、膜の結晶性を下げると低減することから、研究チームでは、従来の常識とは反対の、透明電極の膜内応力を低下させることでギャップ形成が抑制され、デバイス性能が向上するのではと考察。実際に、透明電極(ITO)の製膜中に結晶化を阻害する微量のガスを導入し、応力を低減させることで、ギャップ形成の抑制を行ったところ、ITOの結晶化が阻害され、膜内応力を約1/4にまで低減させることに成功したとする。
さらに、結晶化を意図的に阻害した透明電極を有する有機電界発光デバイスを作製し、その特性評価を行った結果、ギャップがなくなることで、電流-電圧特性および発光量-電圧特性が改善されることが確認されたという。
なお、研究チームでは、今回得られた結晶化を阻害することが性能向上につながるという知見は、高性能な透明有機デバイスを実現する上で重要だとしており、今後は、透明電極内の応力のさらなる低減、およびそれによる透明有機デバイスの高性能化に取り組むと同時に、長期間使用時の耐久性など実用面での検討を行い、実用化に向けた研究を行っていくとしている。