早稲田大学(早大)は7月7日、タンパク質摂取による筋量増加効果は、摂取量だけでなくタイミングも影響することを明らかにしたと発表した。また、朝食時にタンパク質を摂取することがもっとも筋量を増加させ、それには筋肉の合成を高める作用が強い分岐鎖アミノ酸が関わっていることも合わせて発表された。

同成果は、早大 重点領域研究機構の青山晋也次席研究員(研究当時、現・長崎大学 医歯薬学総合研究科 神経機能学 助教)、早大 理工学術院の柴田重信教授、同・金鉉基講師らの研究チームによるもの。詳細は、ライフサイエンスを扱ったオープンアクセスジャーナル「Cell Reports」に掲載された。

食事から摂取するタンパク質は、骨格筋の合成や筋量の維持・増加に重要とされているが、各国の食事調査から、多くの国で、その摂取量は朝食では少ないこと、朝・昼・夕食といった3食の中で摂取量に偏りがあるといったことが分かっているが、この1日の中での食事の偏りと骨格筋の機能などについては、よくわかっていなかったという。

そこで研究チームは今回、マウスを用いて、1日の中でタンパク質を摂取する時間帯が異なることが過負荷による筋肉量の増加に影響があるのかを調べることにしたという。また、タンパク質の摂取時間による効果の差を生み出すキー因子として、体内時計を司る時計遺伝子に着目。摂取タイミングによる、筋量増加効果に対する体内時計の関与の分析が行われたほか、ヒトを対象とした研究による3食におけるタンパク質摂取と筋力や筋量との関係性についての調査も実施したという。

1日2食の条件下で飼育されたマウスに対し、各食餌のタンパク質含量を変化させて与えたところ、朝食に多くのタンパク質を摂取したマウスでは、夕食に多く摂取したマウスや朝・夕食で均等に摂取したマウスに比べて筋量の増加が促進することが判明。1日のタンパク質摂取量が同じ場合、朝(活動期のはじめ)に重点的に摂取した方が筋量の増加には効果的であることが示されたという。

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    朝食と夕食のタンパク質の配分と筋肉量の増加の関係 (出所:早大Webサイト)

また、筋肉の合成を高める作用が強いアミノ酸として、「バリン」や「ロイシン」、「イソロイシン」など、側鎖に分岐構造を持つ「分岐鎖アミノ酸」との関係性を調べるため、朝食または夕食に分岐鎖アミノ酸添加食を摂取させた際の筋量を測定したところ、朝食の分岐鎖アミノ酸添加食の摂取は夕食での摂取に比べて筋量が増加しやすいことが示されたともする。

さらに、なぜ朝(活動期初期)における摂取が筋量を増加させやすいのか、時計遺伝子との関連性を調査したところ、時計遺伝子Clockに変異の入ったClock mutantマウスや、時計遺伝子Bmal1を筋肉で欠損させた筋特異的Bmal1欠損マウスでは、朝食のタンパク質摂取における筋量増加効果が見られないことも判明したという。

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    時計遺伝子機能不全マウスにおけるタンパク質の摂取タイミングによる筋量増加効果 (出所:早大Webサイト)

これらのマウスでの結果を受けて、高齢女性を対象に、3食のタンパク質の摂取量と骨格筋機能との関係性の調査を実施したところ、夕食で多くのタンパク質を摂取している人に比べ、朝食で多くのタンパク質を摂取している人では、骨格筋指数や握力が高く、1日のタンパク質摂取量に対する、朝食でのタンパク質摂取量の比率と骨格筋指数は正の相関を示すことが判明したという。ただし、観察研究であるため因果関係はまだ不明な点があるともしているが、人でも朝のタンパク質が筋肉量の維持・増加に有効である可能性が示されたという。

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    高齢女性を対象とした朝食と夕食におけるタンパク質摂取量と骨格筋機能の関連性 (出所:早大Webサイト)

今回の成果について研究チームでは、体内時計に合わせたタンパク質の摂取が筋量増加には効果的である可能性があるとしており、夜間勤務やシフトワーク、朝食欠食など体内時計を乱すような生活リズムの場合、朝食のタンパク質摂取による筋量増加の恩恵は受けにくい可能性も考えられるとしている。

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    今回の研究成果の概略図 (出所:早大Webサイト)

そのため、追加検証は必要としているが、タンパク質の量だけでなく、摂取タイミングもうまく活用することで、筋力や筋量が低下しやすい高齢者の健康を効率よく維持・増進できる可能性がでてきたとしている。