新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)は7月3日、NEDOが進める「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」において、PETRAが通信波長帯の光信号を低損失で伝送できる光IC・光ファイバー間の3次元光配線技術の開発に成功し、試作サンプルで次世代標準である毎秒112ギガビットの光信号を80℃超の高温環境下で伝送し、有用性を実証したと発表した。
今回の成果の詳細は、PETRAによって、7月7日まで開催中のアジア最大級の光通信関連国際会議「OECC 2021」で発表される予定だという。
人工知能(AI)やIoTなどの急速な普及により、データセンターや高性能コンピューティング(HPC)分野の消費電力が増大している。そこで省電力化に向け、LSIとシリコンフォトニクスによる光ICを統合したコパッケージが注目されている。
そのような背景のもと、2020年末には112ギガビット/秒(Gbps)の高速光信号で動作するコパッケージの実用化を加速するための標準化議論が始まった。しかし、現在のコパッケージで採用が検討されている、複数のモジュール型の光ICをLSIから離れた基板端面に電気配線で接続する方式では、LSIと光IC間の電気配線が長いことで消費電力が増大して発熱が増えてしまうため、毎秒51.2Tbps(512レーン×112Gbps)の処理が限界だとされている。そのため、51.2Tbps処理の低消費電力化とさらなる高速処理のための新技術が求められていたのである。
それを受けてNEDOは「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」プロジェクトを2013年度にスタート(2021年度までの9年間)。そして、同プロジェクトにおいて、光ICと光ファイバーを光接続する高精度光実装技術の開発を担当したのがPETRAだ。PETRAはアイオーコア、OKI、東芝、NEC、NTT、日立製作所、フジクラ、富士通、富士通オプティカルコンポーネンツ、古河電気工業、三菱電機、NTTエレクトロニクスといったメーカーと、産業技術総合研究所、光産業技術振興協会の計14の企業や研究機関などで組織されている。
光ICにおいて課題となっていたのが、導波路を通過する光の断面積が光ICのシリコン光導波路中と、ポリマー光導波路中で10倍以上異なる点であるという。また両者の屈折率も大きく異なるため、通信波長帯でそのまま接続させると大きな光損失が生じてしまうことも同様にして課題となっていたという。
それを今回、シリコン光導波路からの出力光に対して、垂直方向に反射させる非球面ミラーを基板上に形成することによって光のビーム径を最適に制御することに成功。さらに、上部の45度ミラーと併用することで、光の経路を3次元的に自在に制御した上でポリマー光導波路へ接続する、3次元光配線技術を用いた3次元マイクロミラーの開発に成功したとする。
しかし、3次元マイクロミラーは熱膨張係数が2桁異なるシリコンとポリマーを用いているため、高温動作における影響が懸念されていたことから、高速光信号ではシリコン光導波路、マイクロミラー、ポリマー光導波路間の多重反射などによって波形が劣化する可能性もあり、その検証のため、高温下で高速光信号による実験が実施。その結果、データセンターの運用で必要とされる85℃という高温下で、目立った信号波形の劣化なしに光伝送できることが確認されたという。
今回の成果を活用することで、現在研究開発されている第1世代のコパッケージと比較して、次世代コパッケージは30~40%の電力量削減が見込めるという。
今後、PETRAは今回の成果を活用し、プロジェクト最終年である2021年度中にデータセンターおよびコンピューター内で光回路を実装し、LSI間の情報伝送速度の高速化と低消費電力化を実現させる計画だとしているほか、プロジェクト終了後も、さらなる多チャンネル化や波長多重化への対応を検討し、LSIと光ICの一体集積化技術の開発を進め、50Tbpsの処理が可能なコパッケージの研究開発を行うとしている。これによりデータセンターのCPUやサーバー内信号の光伝送化を実現し、電力量削減を目指すとしている。