東京大学とユーグレナの共同研究チームは、微細藻類ユーグレナの乾燥粉末が、胃がんに進展すると予想される胃粘膜の炎症を抑制することを示唆する研究成果を確認したことを7月2日に発表した。

同研究は、東京大学農学部獣医学専修の飯田理聖氏、フィリピン大学ロスバニョス校獣医学部 准教授Mark Joseph M. Desamero氏、ユーグレナ研究開発部機能性研究課の安田光佑氏、ユーグレナ研究開発部機能性研究課 課長の中島綾香氏、東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻 准教授の角田茂氏、同教授の平山和宏氏らによるもの。詳細は、オープンアクセスの学術誌「Scientific Reports」に7月1日付で掲載された。

胃がんは世界的には2番目に多いがんであり、日本でも年間約12万9000人に発生し、 約4万3000人の死亡原因となっているという。ヒトでは、慢性的な炎症による胃粘膜の増殖亢進(過形成)から異常な細胞の増殖(異形成)を経て胃がんを発症するという過程がよく見られる。

今回の研究では、このよく見られる過程で胃がんを自然発症する遺伝子改変モデルマウスにユーグレナまたはユーグレナの成分のひとつであるパラミロンという物質の経口投与を実施。その結果、3週間にわたる投与で、正常なマウスに比べて胃がんモデルマウスの胃粘膜で顕著に増加する炎症細胞の数が有意に減少したことを確認したとしている。

  •  CD3陽性Tリンパ細胞

    胃粘膜のCD3陽性Tリンパ細胞(炎症性細胞)に対するユーグレナおよびパラミロンの影響。矢じりは、粘膜の炎症に関わるCD3陽性Tリンパ細胞を示し、ユーグレナおよびパラミロン投与群ではCD3陽性Tリンパ細胞が有意に減っているのが観察されたという(出所:ユーグレナ)

また、同じく胃がんモデルマウスで発現が異常に亢進することが知られているサイトカインやケモカインなどの遺伝子発現も抑制した一方で、 胃粘膜の異形成や細胞の増殖には明らかな効果を示さなかったとした。

  • サイトカイン有意差

    胃がんの発症に関わるサイトカインやケモカインの遺伝子発現。胃がんモデルマウスにユーグレナもパラミロンも投与していない未投与コントロールに対して有意差がみられたという(出所:ユーグレナ)

研究チームは、今回の研究は胃がんそのものを抑制するかどうかを観察したものではないが、 ユーグレナの摂取によりがんの発生や進展を遅らせることができれば、 がん患者の生存率を向上させられると期待されるものだとしており、今後は胃がんが発症するまで長期に効果を観察する実験により、ユーグレナの抗がん効果を明らかにしていく方針だとしている。