合同アルマ観測所は、欧州南天天文台の研究チームがアルマ望遠鏡を使って、若い恒星「Elias 2-27」を取り巻く原始惑星系円盤の特徴的な2本の渦巻き構造を深く掘り下げ、その渦巻きの起源は惑星や伴星との相互作用ではなく、重力による不安定性である可能性があると発表した。

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    アルマ望遠鏡で観測された、若い恒星であるElias 2-27の原始惑星系円盤。波長0.87mmの電波で観測された塵の分布が青色で、C18O分子の放射が黄色、13CO分子の放射が赤色で示されている。(c) Teresa Paneque-Carreño/ Bill Saxton,NRAO/AUI/NSF (出所:合同アルマ観測所Webサイト)

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    Elias 2-27はへびつかい座の星形成領域にあり、地球からの距離は378光年。星図上ですぐ下側にある1等星がさそり座のα星アンタレス (c) Bill Saxton,NRAO/AUI/NSF (出所:合同アルマ観測所Webサイト)

同成果は、欧州南天文台のテレサ・パネケ・カレーニョ氏(国際共同研究チームの責任者兼1本目の論文の主著者)、チリ大学のラウラ・ペレス氏、米・ジョージア大学のカサンドラ・ホール助教、アルマ望遠鏡のオブサーバトリー・サイエンティストのジョン・カーペンター氏、伊・ミラノ大学/仏・リヨン高等師範学校のベネデッタ・ヴェロネージ氏(2本目の論文の主著者)らの国際共同研究チームによるもの。詳細は2本の論文にまとめられ、どちらも米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された(論文1論文2)。

恒星は、星間ガスや塵が集まった星形成領域において、ほかの恒星の超新星爆発などの影響を受け、ガスや塵が集積して誕生する。そのとき、周囲には恒星に落ち込まなかったガスと塵でできた原始惑星系円盤が巡るようになる。そして、星の誕生からおよそ1000万年以内に、この原始惑星系円盤の中で惑星が誕生すると考えられている。しかし、まだ惑星の形成過程にはわかっていない部分も多い。

原始惑星系円盤の中で惑星が誕生するプロセスを駆動する重要なメカニズムがいくつかあると考えられており、そのうちの1つが「重力不安定」とされる。円盤が十分な質量を持つ場合、円盤に含まれる粒子が互いに重力を及ぼしあうことで粒子の分布が大きく乱される現象である。重力不安定は、円盤が小さな塊に分裂する原因となり、それらは巨大な惑星を短時間で形成する種になる可能性があるという。

今回の観測対象となったElias 2-27は、さそり座との境界に近い、へびつかい座の星形成領域にあり(さそり座のα星アンタレスのすぐ近く)、地球からの距離は378光年。その原始惑星系円盤が2本の腕がある渦巻き構造を持っており、このような特徴を有する原始惑星系円盤はほかに存在しないという。そのユニークさから、発見されて以来、アルマ望遠鏡の研究者たちの間で人気を集めているという。

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    Elias 2-27の原始惑星系円盤の2本の渦巻き構造の模式図。大きな塵の粒子は渦巻きの腕の部分に沿って見られ、小さな塵の粒子は円盤全体に分布していることが確認された。また、観測によりガスの非対照的な流入も確認されたことから、円盤にまだ塵やガスなどが落下している原始星円盤の状態である可能性があるとしている (c) Bill Saxton,NRAO/AUI/NSF (出所:合同アルマ観測所Webサイト)

2016年に、今回の論文の共著者であるチリ大学のペレス氏率いる研究チームがアルマ望遠鏡を用いてその渦巻き構造を発見したが、そのときは、渦巻き構造がどうしてできたのかを解明することはできなかったという。その謎を解くためには、アルマ望遠鏡で複数の周波数帯での観測や、ガスが放つ電波の観測が必要と考えられた。

また計算天体物理学という別の観点からは、円盤の垂直非対称性と速度のゆらぎは原始惑星系円盤の渦巻き構造のもとになる可能性があるとする。今回の観測でその両方が確認されたことは、惑星形成理論に大きな影響を与えるかもしれないとている。2本の渦巻き構造は、惑星形成の初期段階を加速させる重力不安定の証拠である可能性もあるからだ。

重力不安定によってこの渦巻き構造を説明することは可能となったが、説明がつかない現象も残っている。円盤の内側にすき間があり、現時点ではその明確な説明はできていないという。

今回の観測では、アルマ望遠鏡の多波長かつ高解像度の画像を用いた解析が行われた。そして運動学的な摂動と力学的なプロセスを分子輝線をもとにした調査が行われたところ、「13CO」と「C18O」のふたつの分子が放つ電波から、円盤は大きな摂動(重力によって軌道が乱されること)を受けており、大きく広がっていることも明らかとなった。円盤のガスに垂直方向のゆらぎがあったのである。

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    Elias 2-27の原始惑星系円盤の上の画像4点は、分子ガスが放つ電波のドップラー効果を利用して、異なる速度のガスの分布を描き出したもの (c) Teresa Paneque-Carreño/Bill Saxton,NRAO/AUI/NSF (出所:合同アルマ観測所Webサイト)

このガスの垂直方向のゆらぎは、同種の天体ではこれまで観測されたことがなく、伴星の重力で説明するには大きすぎるという。円盤の非対称な垂直構造は、現在も物質の落下が進行中であると仮定すれば、その影響が考えられるとしている(まだ物質が周囲から円盤に流入・落下している状態なら、原始惑星系円盤ではなく、その前段階として「原始星円盤」と区別される)。惑星形成の現場がとても混沌としていることがわかる状況だとする。

なお、これまでの研究で惑星形成を理解する上で障壁となっていたのが、円盤の質量を正確に測定できないということだった。これまでは、塵や希少な同位体分子の観測に基づく間接的な形での計測が限界だったが、今回はその問題を解決し、アルマ望遠鏡の高感度により、円盤の力学的プロセスや密度、さらには質量を詳細に調べることができ、円盤の質量全体を見積もることができるようになったという。

円盤の質量全体を見積もることに成功したことは、円盤の質量を測定する方法を開発するための基礎となるとする。

パネケ・カレーニョ氏は今回の研究成果に対し、「惑星の形成には何百万年もの時間がかかるため、惑星の形成方法を研究することは簡単ではありません。これは、何十億年も生きる星にとっては非常に短い時間スケールですが、私たちにとっては非常に長いプロセスです。私たちにできることは、ガスや塵の円盤を持つ若い星を観測し、その円盤がなぜこのような形をしているのかを説明することです。それはまるで、事件現場を見て何が起こったかを推測する探偵のような仕事です。今回の観測分析と、今後のElias 2-27の詳細な分析を組み合わせることで、原始惑星系円盤の中で重力不安定性がどのように作用するのかを正確に把握し、惑星がどのようにして形成されるのかをより深く理解することができます」とコメントしている。