天草市立御所浦白亜紀資料館(GCM)と福井県立恐竜博物館(FPDM)は6月29日、共同調査により、約7200万年前の白亜紀末期マーストリヒチアン時代の「姫浦層群下津深江層」(熊本県天草市天草町)から、植物食の鳥脚類恐竜「ハドロサウルス上科」の歯2点、「歯骨歯」(長さ9mm×幅9mm)「上顎骨歯」(長さ16mm×幅13mm)が発見されたと発表した。
2018年年10月、両者の共同調査において、天草町の海岸で姫浦層群の下津深江層に1点の歯(上顎骨歯、GCMの標本登録番号GCM-VP745)などの化石が露出した化石包含層が発見された。発見場所は国立公園および名勝地内のため、許可取得後の2021年3月に御所浦白亜紀資料館が発掘を行い、追加標本(歯骨歯、同登録番号GCM-VP746)を含む化石が収集された。
そして発見された化石について両者の共同研究が行われ、ハドロサウルス上科の上顎骨歯および歯骨歯(下顎の歯)と判明した。そのほかの化石については現在研究中だとしている。
今回発見された2点の化石は、共に1本の顕著な稜(りょう)が中央にあり、歯根が単一であること、白亜紀末期(約7200万年前)の地層からの発見などから、進化的なハドロサウルス上科の歯であると考えられるという。
そのうちの上顎骨歯は、咀嚼(そしゃく)に使用された機能歯であり、咀嚼ですり減った咬耗面(こうもうめん)が確認可能だという。一方の歯骨歯の咬耗面は破損のため確認できなかったとのことだが、発達した稜の脇には2つ目の弱い稜線があることが確認されたとする。ハドロサウルス上科の進化的グループは、歯が密集して存在するデンタルバッテリーと呼ばれる構造があり、これらの歯はデンタルバッテリーを構成していた歯と判明したという。
この歯の持ち主であったハドロサウルス上科の恐竜はアジアで多様化し、白亜紀の中ごろには北米へ移動したものが、進化的な種として後にアジアへと戻り、白亜紀末期まで繁栄したと考えられている。進化的なハドロサウルス科とやや原始的なハドロサウルス上科が共存していたこともわかっている。
熊本県のハドロサウルス上科の化石は、天草市御所浦町の御所浦層群(約1億年前:歯などの化石)、御船町の御船層群(約9000万年前:頭骨の一部など)、さらに、天草市天草町の軍ヶ浦層(別名・宮野河内層:約8000万年前)から足跡の化石が発見されている。
今回の化石はこれまで恐竜化石の記録がなかった天草市の西海岸から発見され、白亜紀末期のマーストリヒチアンという新しい時代(約7200万年前)のものだ。このことから、熊本県は日本のハドロサウルス上科の変遷史をたどるうえで、時代の異なる重要な化石記録が得られる場所であることが明らかになったという。
マーストリヒチアンの恐竜化石は、恐竜の大絶滅前の多様性がどうであったかを知る重要な研究資料となるとする。これまで日本国内では3か所で発見され、4例の化石しか存在していない。
北海道むかわ町穂別からはカムイサウルス・ジャポニクス(ほぼ全身骨格)、兵庫県洲本市(淡路島)からはヤマトサウルス・イザナギイ(歯骨、頸椎など)が発見され、これら2種はハドロサウルス科の新種だ。鹿児島県薩摩川内市上甑島ではハドロサウルス上科(大腿骨)と獣脚類(歯)の化石が報告されている。
なお、天草市立御所浦白亜紀資料館と福井県立恐竜博物館では、今夏、今回の化石の実物と複製の一般公開を予定しているという。実物が展示されるのは、地元の天草市立御所浦白亜紀資料館で、7月17日(土)から8月31日(火)までの期間、企画展「恐竜からイルカまで天草一億年の旅 - 御所浦白亜紀資料館収蔵品展 -」の会場にて展示される予定。一方の福井県立恐竜博物館では複製が7月17日(土)から常設展示される予定だという。