東京工業大学(東工大)、東京農工大学(農工大)、東京大学の3者は6月25日、次世代の高効率発電デバイスとして期待される「固体酸化物形燃料電池」(SOFC)の電極における反応場と三次元微細構造を同時に観察する技術を開発したと発表した。

同成果は、東工大 工学院システム制御系の長澤剛助教、農工大 大学院工学研究院 先端機械システム部門の志村敬彬特任助教(研究当時、現・東大大学院 工学系研究科 総合研究機構 次世代ジルコニア創出社会連携講座 特任助教)、東大 生産技術研究所の鹿園直毅教授、東工大 工学院 機械系の花村克悟教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米・電気化学会の発行する「Journal of The Electrochemical Society」にオンライン掲載された。

「固体酸化物形燃料電池」(SOFC)は、主にジルコニアやセリアなどの酸化物イオン伝導性セラミックスと、触媒活性を有する金属、酸化物から構成される燃料電池であり、600~1000℃の高温にて動作し、最高65%ほどの発電効率が特徴の1つとなっている。しかし、その本格的な普及に向けた課題として、発電温度の低温化によるコストダウンや性能の長寿命化などが挙げられており、それらを実現するためには、電極の性能および安定性の向上が不可欠とされている。

SOFCの電極は、一般的に直径1μm程度の複数の材料による粒子からなる多孔質構造を有する。その微構造が電極内部の反応分布や発電性能に影響を及ぼすことから、その関係性の解明は電極構造の最適化や性能向上を目指す上で重要だとされるが、電極構造と内部の反応分布の関係を実験的に直接検証した例はこれまで報告されておらず、数値計算による検証のみに留まっていたという。

そこで研究チームは今回、同位体ラベリングと反応のクエンチによるSOFC電極反応場の可視化する技術「同位体クエンチ法」と、集束イオンビーム走査電子顕微鏡(FIB-SEM)を用いた電極三次元微構造観察を組み合わせた観察を実施することにしたという。

  • 燃料電池

    SOFC空気極の反応場と三次元構造の同時観察手法 (出所:東大生研Webサイト)

今回の研究では「ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)/イットリア安定化ジルコニア(YSZ)空気極」が用いられ、その結果、再構築された三次元微細構造、中間断面内の18O濃度分布、および同断面における電極微細構造の関係を捉えるのに十分な空間分解能を有することが確認されたという。

  • 燃料電池

    SOFC空気極の酸素同位体分布と断面連結構造の比較 (出所:東大生研Webサイト)

また、連結相内であっても局所的に大きな反応量の分布が存在することが示唆される結果も得られたことから、今後さらなる詳細な構造解析やシミュレーションとの比較により検討を進める必要があるとしている。

今後、さまざまな材料や構造、運転条件に対して今回の手法が適用されることにより、電極構造と反応分布、および電極性能の関係が解明され、最適な電極構造設計への指針獲得につながっていくことが期待されると研究チームでは説明している。

また、今回取得された電極実構造を用いた同位体拡散を含む電気化学シミュレーションを実施することにより、数値計算と実験の18O濃度分布を直接比較することが可能となることから、数値計算モデルやそこに含まれる未知パラメータの検証・同定が可能となり、電極内部の各反応現象の理解や電気化学シミュレーションの高精度化につながることも期待されるとしている。