QPS研究所、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、九州電力(九電)の3者は6月23日、「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ」(J-SPARC)のもと、小型SAR(Synthetic Aperture Radar:合成開口レーダー)衛星コンステレーションによる、「準リアルタイム」でのデータ提供サービスの実現ならびに同データを活用したインフラ管理業務の高度化・効率化や新たなサービス創出に向けた覚書を締結し、共同実証を開始したことを発表した。

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    今回の共同実証のイメージ (出所:JAXA Webサイト)

今回の共同実証においてQPS研究所は、衛星による撮像からユーザーにSAR画像を提供するまでの時間短縮に向けて、現在開発中の小型SAR衛星3号機に「軌道上画像化装置」を搭載・実証し、軌道上で画像化されたSAR画像の有効性評価を含めた事業成立性の検証を行う。加えて、事業性検討の一環として、九電が進める取り組みへのデータ提供などの支援を行うという。

JAXAの陸域観測技術衛星「だいち2号」(2014年5月打ち上げ・現在運用中)のように、これまでSARセンサーを搭載した衛星は大型のアンテナなどが必要なため、2トン級の大型衛星だった。それに対し、アンテナを軽量化するなどしてQPS研究所が独自開発した小型SAR衛星は従来の約20分の1となる100kg級ながら、分解能は自動車を見分けられる1mの性能を持ちつつ、コストは従来の100分の1と抑えられおり、こうした小型SAR衛星を開発できる技術力が高く評価されている。

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    QPS研究所製100kg級SAR衛星と、軽量化に大きく貢献した直径3.6m・重量10kgの大型かつ超軽量展開型パラボラアンテナ (出所:QPS研究所 Webサイト)

同社は現在、2025年を目標に、36機の小型SAR衛星を打ち上げる計画だ。36機によるコンステレーションにより、世界中のほぼどの地点でも約10分という短時間(QPS研究所では「準リアルタイム」と表現)で観測してデータを提供するというプロジェクトを推し進めている。すでに初号機「イザナギ」は2019年12月に、同2号機「イザナミ」は2021年1月に打ち上げ済みで、今回の共同実証はそのプロジェクト実現へ向けたステップの1つである。

今回の共同実証でQPS研究所は、衛星による撮像からユーザーにSAR画像を提供するまでの時間短縮に向けて、現在開発中の小型SAR衛星3号機に、JAXAとアルウェットテクノロジーが共同開発した地上局にデータ伝送するまでの待ち時間を使って、衛星上であらかじめ画像化までを行ってから伝送することを可能とする「軌道上画像化装置(FLIP)」を搭載・実証。軌道上で画像化されたSAR画像の有効性評価を含めて、事業成立性を検証する計画だ。そして事業性検討の一環として、九電が進める取り組みへのデータ提供などの支援を行う。

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    JAXAとアルウェットテクノロジーが共同開発し、2020年2月に発表された「軌道上画像化装置(FLIP)」。従来は地上で行われていたSARデータの画像化処理を、高速処理が可能なFPGAに適したアルゴリズムに書き換えてファームウェア化することで、衛星搭載用装置として完成したという。従来方式だと衛星のデータレコーダの容量とデータ伝送速度の限界のため、観測域の拡大が難しい状態だった。しかしFLIPを活用すれば、SAR衛星による海洋観測なども考えられ、小型のSAR衛星の需要増も期待されるとしている (出所:JAXA Webサイト)

そして九電は、電力設備および設備周辺環境の巡視点検や非常災害時の被害状況把握など、インフラ管理業務の高度化・効率化策の検討や、地域・社会の課題解決につながる新たなサービスの検討を行うため、SARデータ(準リアルタイムデータ含む)の有効性評価やニーズ調査を実施する計画だ。

JAXAは研究開発成果であるFLIPの軌道上実証を行うほか、QPS研究所の小型SAR衛星のリスク分析支援を行い、その活動を通じて小規模でスピード重視の開発方式に適した将来のミッション保証方法の確立を目指す。さらには、九電のSARデータ評価やサービス検討への技術的協力を通じて、衛星データ利用の拡大を目指すとしている。 なお3者は今回の共同実証を通じ、小型SAR衛星コンステレーションによる準リアルタイムでの画像提供がもたらす新たな価値の創出および社会課題解決への衛星データ利用の拡大を目指していくとしている。