北海道大学(北大)は6月23日、金の反射フィルム上に厚さ約30nmの酸化チタンを成膜し、その上に金銀合金ナノ粒子を担持した光電極を用い、可視光全域の光吸収と、それに伴う光電流発生および水酸化反応の高効率化に成功したと発表した。

同成果は、北大 電子科学研究所の菅浪誉騎大学院生、同・押切友也助教、北大 創成研究機構の石旭助教、北大 電子科学研究所の三澤弘明特任教授らの研究チームによるもの。詳細は、独化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載されるに先立ち、オンライン掲載された。

低炭素社会の実現に向け、さまざまな新技術の開発、既存技術の改良が求められている。太陽光の可視光を効率よく利用し、水からの水素の製造や、二酸化炭素の還元を可能とする技術として、「人工光合成」を用いたシステムの研究もその1つである。

三澤特任教授らの研究チームはこれまで、半導体に「プラズモン」を示す金属ナノ粒子を組み合わせることで、半導体単独では不可能な波長の光を吸収させ、水の光分解を行う人工光合成システムを研究してきた。

最近の研究では、「金ナノ粒子/酸化チタン/金フィルム構造」(ATA構造)を用いることで、プラズモンと薄膜構造で閉じ込めた光同士を強く相互作用させる「強結合」と呼ばれる状態を作り、可視光波長域での光吸収効率と水分解効率の向上に成功している。

強結合とは、異なる2つの状態が強く相互作用し、それぞれが混じり合うハイブリッド状態を形成することであり、この光の強結合を用いた化学反応を活用することにより、可視光利用による人工光合成システムの反応効率を実用レベルまで引き上げられることが期待されている。しかし、その反応増強のメカニズムについては明らかとなっていなかったという。

そこで研究チームは今回、従来の金ナノ粒子に代えて「金銀合金ナノ粒子」を用いて、「金銀合金ナノ粒子/酸化チタン/金フィルム構造」(AATA構造)を作製。AATA構造を光電極に、水を電子源にしたシステムにおいて、光電流の発生と、それに伴う酸素を発生させることに成功したという。

AATA光電極の吸収スペクトルと光電変換の計測、酸素発生の定量を実施したところ、高い結晶性が示されていること、金と銀が粒子中に均一に分散していることが判明したほか、400~800nmの可視光領域で高い吸収を示し、強結合の形成に由来する吸収ピークの分裂が観測されたという。

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    (上2点)金銀合金ナノ粒子の透過型電子顕微鏡像。特に右のスケールバーが1nmの画像においては、結晶構造が理路整然としていることがわかる。(下2点)金銀合金ナノ粒子のエネルギー分散型X線分光による元素マッピング。左が金で、右が銀。どちらも大きな塊などがなく、きれいに散らばっているのがわかる (出所:北大プレスリリースPDF)

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    AATA電極およびATA電極の吸収スペクトル。吸光度は1で90%、2で99%の光を吸収していることを示している (出所:北大プレスリリースPDF)

また、強結合の結合強度の尺度となる2つのピークの分裂幅は、AATA電極の方が従来のATA電極よりも大きく、「超結合」と呼ばれる領域に達していることも確認されたという。

AATAを光陽極として求めた入射光電流変換効率は波長580nmで4%に達し、従来のATA電極と比べて2倍以上の効率増大が達成されたという。また、可視光照射下での酸素発生量とファラデー効率が求められ、計測された光電流が水の酸化に伴う酸素発生に由来することも実証されたという。

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    (左)AATA電極およびATA電極を光陽極として用いた際の入射光電流変換効率。波長580nmで4%に到達し、従来のATA電極と比べて2倍以上の効率増大が達成された。(右)AATAに可視光(波長400nm以上)を照射した際の酸素発生量(赤のバー)とファラデー効率(黒のバー)。計測された光電流が水の酸化に伴う酸素発生に由来することが実証された (出所:北大プレスリリースPDF)

今回の研究成果を受けて研究チームでは、結合強度が強結合電極上での反応制御因子の1つであることが明らかになったことから、水分解をはじめとした人工光合成の可視光領域での反応効率を向上させることにつながることが期待されるとしているほか、強結合を利用した種々の光化学反応系や化学センサの高効率・高感度化にもつながることが期待されるとしている。