日本国内でも、「Amazo Go」のようなリアル店舗でありながら非接触・非対面で商品が買える商業施設が増えてきた。JR山手線・京浜東北線の高輪ゲートウェイ駅には、オープンから1年経過した無人コンビニ「TOUCH TO GO(タッチ・トゥ・ゴー)」がある。
利用客は、ゲートをくぐり、購入する商品をそのままバッグへ入れ、セルフレジで自動で算出された購入金額を電子マネーで支払う。天井に設置された約50台ずつのカメラとセンサー、商品の棚に設置されている重量センサーが、こうしたスマートな買い物を実現している。カメラと各種センサーから得た情報を人工知能(AI)が処理することで、それぞれの利用客がバッグに入れた商品を記録する仕組みだ。
また、入場から決済までが顔認証で完結する無人コンビニも登場している。博報堂プロダクツとセキュリティソリューションを提供するセキュアは4月15日、小学館・ジュンク堂書店と無人店舗「DIME LOUNGE STORE(ダイムラウンジストア)」を新宿住友ビルにオープンした。
同店舗は、「TOUCH TO GO」と異なり、入場するには顔写真とクレジットカード情報を事前に登録する必要がある。登録が完了すると、入場から決済までが顔認証で完了する。スマートフォンさえ要らない、まさに「手ぶらで買い物」が可能だ。
大型商業施設も負けていない。日本版のウォルマートを目指す大型スーパー「トライアル」は、小売りに特化した独自のAIやIoT技術を駆使し、店舗の業務効率化や省人化、顧客への新しい買い物スタイルの提供を実現している。
トライアルの利用客は、タブレットとバーコードリーダーを搭載したセルフレジ機能付きの買い物カート「スマートレジカート」を使用することにより、非対面でスムーズな買い物ができる。
まず、事前に個人情報を登録し現金をチャージしたトライアル専用のプリペイドカードを、タブレットにスキャンすることでレジカートが使用可能になる。利用客は、商品のバーコードをスキャンしながら買い物を進める。
「やっぱりいらない」となった商品や、誤って2重にスキャンしてしまった商品は、タブレットの画面上でキャンセルすることが可能。また、個人の購買履歴データに基づく買い物傾向に沿ったクーポンを取得できる。スキャンした商品とあわせ買いされやすい商品をAIがビックデータから抽出し、クーポンの設定があった場合に表示される。
決済に関しては、専用ゲートをそのまま通過するだけで、プリペイドカードのチャージ額から購入金額が引かれて、レジ待ちをすることなくキャッシュレス決済が完了する。有人レジの場合と比較して、約75%の待ち時間の短縮になるという。
また、レジ人時が約2割削減できたなど、トライアル側のメリットも大きい。6月25日現在、トライアル38店舗で約3600台導入済みで、今後、2021年中に合計60店舗、5000台以上のスマートレジカートを導入する予定だ。
「スマートレジカート」以外にも、同社が独自開発した「リテールAIカメラ」を店舗に導入している。天井や商品棚といった至る所に設置されている同カメラは、商品の在庫状況を可視化する。欠品状況のデータを取得することで、発注量や陳列量の最適化による欠品の回避を図ることが可能。
カメラにはエッジ機能が備わっているため、高性能なサーバを準備する必要がなく、店舗に大量導入することを可能にしている。6月25日現在、リテールAIカメラは、トライアル32店舗で導入されており、約3500台が稼働している。
従来の指定時間に行う補充作業では、状況やタイミングによって、商品棚が空になってしまうこともあったが、同カメラにより、そうした販売機会の逸失を防ぐことができる。
それだけでなく、利用客が棚前で立ち止まったかどうか、商品を手に取ったかどうか、店内に何分滞在したのかといった、動線や位置情報の分析も可能で、売り場の最適化につなげることができる。個人情報保護の観点から、AIカメラで得られた映像そのものは蓄積せず、分析した結果のみをサーバに送信する仕組みだ。
なおトライアルは現在、リテールAIカメラで個人を特定した行動データの取得・分析を行っていない。「お客様の理解をいただくには、そのデータ活用が適切で、お客様のお買い物体験向上に貢献するものであることを丁寧に示していく必要がある」(トライアル広報)としている。
「新型コロナウイルスの登場によって、いつかは導入しなければならないリテールテックから、導入しなければ小売業界が衰退していくリテールテックという認識変換が起こった」と、トライアルグループの技術開発を主導する Retail AI 代表取締役社長の永田洋幸氏は見解を示す。
国内の少子高齢化による人材不足に加え、感染症対策の観点からも、小売業界のIT化はさらに加速していくだろう。