早稲田大学(早大)と大阪大学(阪大)は6月22日、潜熱蓄熱の研究開発に取り組む中で、「セミクラスレートハイドレート」(SCH)の過冷却水溶液中において結晶の最小構造単位として考えられるクラスターが、銀ナノ粒子から生成するその瞬間を捉えることに成功したと発表した。また、銀ナノ粒子がクラスター生成を促進し、SCH生成過程における過冷却を大幅に抑制するメカニズムを明らかにすることに成功したことも合わせて発表された。
同成果は、早大 理工学術院の平沢泉教授、阪大大学院 基礎工学研究科の菅原武助教、パナソニックの町田博宣博士らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の材料化学を扱うオープンアクセスジャーナル「Communications Materials」に掲載された。
利用できずに環境中に廃棄されてしまっている熱エネルギーを有効活用する手段の1つとして、蓄熱技術が注目されている。蓄熱技術にはさまざまな方式があるが、中でも期待されているのが「潜熱蓄熱」だという。ただし、実用化には潜熱蓄熱材の多くが、過冷却現象がもたらす蓄熱動作の不安定化・冷却コスト上昇といった課題を解決する必要があるという。
そこで研究チームが潜熱蓄熱材として着目したのが、常温常圧で「セミクラスレートハイドレート」(SCH)を生成することが知られている「第四級オニウム塩」だという。
水分子が水素結合によって作る籠状構造の内部にゲスト分子(メタンハイドレートの場合はメタン分子)が包接されてできる結晶を「クラスレートハイドレート」と呼び、その中で、ゲスト分子が水素結合ネットワークに参加するもののことを、セミクラスハイドレート(SCH)という。
SCHはオニウムカチオンのアルキル鎖長やカウンターアニオンの種類によって、ハイドレートの分解温度を約30℃の範囲で変化させることができるため、デザイン可能な潜熱蓄熱材とされる。ただし、SCHは生成時における大きな過冷却が課題で、それを抑制するための設計指針が、これまで解明されていなかったという。
この課題を解決するため、研究チームはSCH過冷却水溶液中の溶液構造に着目。具体的には、水溶液を電子顕微鏡内部で観察できる技術を開発することで、過冷却抑制剤とクラスター生成の関係の系統的な調査を実施したという。
その結果、「ペンタン酸銀」と「フッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム」(Tetra-n-butylammonium fluoride:TBAF)を添加した系において、約5nmの銀ナノ粒子が生成され、それを起点に直径10~30nmのクラスターが生成する瞬間を捉えることに成功したという。
また、銀ナノ粒子とTBAFの協奏的な効果により、原子や分子が集合したクラスターの生成が促進され、SCHを生成させる過程において過冷却を抑制することにも成功したとするほか、パラジウム、金、イリジウムなどの貴金属ナノ粒子は過冷却抑制効果が小さいことと、そのメカニズムも明らかにしたという。
なお、今回の研究成果を踏まえることでさまざまな第四級オニウム塩のSCHを用いた潜熱蓄熱材の過冷却を抑制する設計指針が示されたと研究チームでは説明している。また、これにより潜熱蓄熱材の実用化が加速することが期待されることに加え、医薬・食品、機能品、宝石、環境、エネルギー分野の結晶作りにおける生産効率、品質向上につながることも期待できるようになったとしている。