九州大学(九大)は6月22日、CO2を選択的に透過する高性能な分離膜「アミン含有ゲル粒子膜」の開発に成功し、それを多孔性の支持膜にスプレー塗工をするだけで、排気ガスだけでなく大気中からもCO2を選択的に回収する透過膜を作り出すことができたと発表した。

同成果は、九大大学院 工学研究院の星野友准教授、九大 工学府の行部智洋大学院生(研究当時)、九大 カーボンニュートラル・エネルギー研究所の谷口育雄准教授らと、日本炭素循環ラボの研究者を加えた共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会誌「ACS Applied Materials & Interfaces」に掲載された。

世界的なCO2の削減が求められている現代。工場などから排出されるガスだけでなく、すでに大気中に放出されてしまって薄く広がっているCO2の回収・利活用技術の実用化も求められるようになっている。

これまでに、さまざまなCO2回収技術が開発されてきたが、それらの多くはCO2を回収する際に必要なエネルギーコストが大きいという課題を持っており、エネルギーコストがかからない回収技術の実現が求められていた。

このような背景のもと、研究チームが今回開発したのが、CO2と反応する「アミン」を導入したゲル微粒子でできた「アミン含有ゲル粒子膜」となる。それを多孔性の支持膜にスプレー塗工することで、CO2のみを高速に透過するCO2選択透過膜を開発することに成功したという。

  • CO2回収

    アミン含有ゲル粒子膜の成膜方法の模式図。ゲル粒子水溶液を、さまざまな表面構造を有する多孔性の支持膜表面にスプレー塗工をするだけで、欠陥のないガス分離膜を成膜することが可能である (出所:九大プレスリリースPDF)

スプレー塗工する際も、アミン含有ゲル粒子膜が支持膜表面で互いに変形・融合することで、自発的に間隙を閉塞するため、あまり精密さは求められないという。その結果、欠陥なく薄い分離層が高い歩留まりで形成されるという。

  • CO2回収

    凹凸構造を有する多孔性の支持膜表面に成膜されたアミン含有ゲル粒子膜の走査型電子顕微鏡写真。(A)表面像および断面図(挿入図)。(B)断面拡大図。200~300nmのゲル粒子層が形成されている。画像中のスケールの単位は(A)が20μm、(B)が5μm (出所:九大プレスリリースPDF)

実際に今回のCO2選択透過膜を用いて、燃焼後の排ガスを模擬したガス(CO2を10%、窒素を90%含有)からのCO2分離実験を行ったところ、窒素に対して216倍の選択性で、CO2のみを高速に透過できることが確認されたという(透過流束1010GPU)。また、空気を模擬したCO2が400ppmしか含まれていないガスに対する実験においても、窒素に対して2380倍の選択性でCO2を透過することが確認されたという(透過流束1270GPU)。

今回の成果を受けて研究チームは、この膜により燃焼後排ガスや空気中から、1段階の膜分離で高純度なCO2を回収可能な、または分離後に濃縮することも可能な小型・省エネルギーのCO2分離装置を実現できるとしている。