稲盛財団(金澤しのぶ理事長)が科学や文明の発展などに貢献した世界的な研究者に贈る京都賞の今年(第36回)の受賞者に、計算と通信の基礎理論を構築した中国・清華大学学際情報学研究院院長のアンドリュー・チーチー・ヤオ氏(74)ら3氏を選んだ。それぞれメダルや賞金1億円を贈る。昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で京都賞授賞はなかった。今年は2年ぶりの受賞者発表となったが、授賞式は行わず、オンラインでの記念講演を11月ごろに予定している。

稲森財団によると、ヤオ氏は「先端技術部門」の受賞で、授賞理由は「計算と通信の新たな計算理論とそれに基づく安全性の基礎理論への先駆的貢献」。

同氏は、計算と通信の革新的な基礎理論を構築して情報科学の新たな潮流を創出。暗号や量子計算などの最先端研究にも多大な貢献を果たした。また、セキュリティ、データを暗号化したまま計算する秘密計算やビッグデータ処理といった現代社会の問題にも影響を与え続けている。

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    アンドリュー・チーチー・ヤオ氏(稲森財団提供)

「基礎科学部門」には生化学、分子生物学者で米ロックフェラー大学教授のロバート・G・レーダー氏(79)が選ばれた。授賞理由は「真核生物の遺伝子転写メカニズムの原理解明」。

同氏は、50年以上にわたる研究により、「RNAポリメラーゼ群」「基本転写因子群」など、DNAから遺伝情報を取り出す「転写」に関わる多くの因子や機能を発見。それらの成果を通じて真核生物が遺伝子情報を転写する機構の原理を解明し、生命科学の発展に大きく寄与した。

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    ロバート・G・レーダー氏(稲森財団提供)

また「思想・芸術部門」の受賞者は、哲学者でパリ政治学院名誉教授のブリュノ・ラトゥール氏(73)。授賞理由は「科学技術と社会構造の相互作用に着目し、『近代』の根底的見直しを図る哲学の展開」。

同氏は、自然、人間、実験装置などを「アクター」と見なし、科学技術はそれらが混じり合って生まれるという「アクターネットワーク理論」を提唱し、それまでの科学観に新風を吹き込んだ。自然と社会の二元論に基づく「近代」のあり方を見直す哲学を展開し、地球環境問題への提言を含む多面的活動は分野を超えた影響を与えてきた。

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    ブリュノ・ラトゥール氏(稲森財団提供)

3氏はそれぞれ次のようなコメントを寄せた。

ヤオ氏「これまで京都賞を受賞されてきた素晴らしい方々に自分も名を連ねることは、ありがたく心が震えるような思いです」

レーダー氏「生化学研究は遺伝子発現に関する先端技術を用いた多くの最新研究の基礎となるもので、この研究に京都賞をいただけることは本当にありがたいと思います」

ラトゥール氏「京都賞を今回私がいただけるのは、言葉にするまでもなく、とても光栄なことです。私の著作の多くが日本語に翻訳され、知識人の方々の目に留まっていると知り大変嬉しく思っています」

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