独自に開発した河川氾濫予測システムの能力を検証し、実際に堤防が決壊した場所の9割で、平均約32時間前に予測可能だったことが分かった、と宇宙航空研究開発機構(JAXA)と東京大学などの共同研究グループが発表した。各地に洪水被害を起こした2019年の台風19号の事例で検証し、現行の気象庁の洪水予報による数時間前を大きく上回った。「空振り」の多さはつきまとうが、両者は共同研究に参加する自治体に対し、5段階の警戒レベルの情報提供を23日に開始する。
このシステムは「トゥデイズ・アース・ジャパン」。河川や周辺の地形、地質、植生のデータ、気象庁の降雨量などの観測データや数値予測データなどを手がかりに、モデルを使って河川の流量、水位や土壌の水分量などの現況を推計するもの。1キロ四方の区画、1時間単位で計算したデータを1日8回更新する。洪水のリスクを39時間後まで予測できる。観測には陸域観測技術衛星「だいち2号」のほか、災害時には各国の衛星を使う。昨年3月末にはリアルタイムの運用を実現した。
各地で河川の氾濫が相次いだ2019年10月の台風19号(令和元年東日本台風)を対象に、このシステムの性能を検証した。河川の予測水位が200年に1度のレベルを超える場合を「アラート」と定義した。
その結果、実際に決壊した142カ所のうち約91%にあたる130カ所でアラートが示された。決壊した時刻が分かっている80カ所を調べると、予測を始めてからアラートを示すまでの予測時間「リードタイム」は15~38時間で、平均約32時間だった。一方、アラートは542カ所で出ており、堤防が決壊しなかった空振り率は76%に上った。
気象庁の予報は正確だが、リードタイムは6時間程度とされる。国内では気象業務法に基づき、気象庁以外による洪水予報が許されず、研究グループは参加する全国31の自治体に、研究目的として情報を提供してきた。そのため自治体は制度上、このシステムのアラートで住民に避難などを勧告できない。避難誘導や人員配置など、職員の準備作業に時間の猶予を持たせるような活用が考えられる。
近年の技術革新を受け、国は洪水予報などの規制緩和に向けた検討会を設置しており、今後、気象庁以外の予報が認められる可能性があるという。研究グループの東京大学生産技術研究所グローバル水文予測センターの芳村圭教授(気象学)は会見で「一般向けに予報が出せるように期待している。ただ、われわれも準備万端でなく、精度を高める課題がある」と述べた。このシステムの全世界版を、世界気象機関(WMO)が活用する可能性もあるという。
研究グループはJAXA地球観測研究センター、東京大学生産技術研究所などで構成。台風19号による検証の成果は英科学誌「サイエンティフィックリポーツ」に5月13日に掲載され、JAXAと東京大学が6月18日に発表した。
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