名古屋大学(名大)は6月18日、どのような運動要素が高齢者の認知機能低下の予防に有効であるのかを明らかにしたと発表した。
同成果は、名大大学院 医学系研究科 地域在宅医療学・老年科学分野の葛谷雅文教授(未来社会創造機構併任)、同・梅垣宏行准教授、未来社会創造機構の牧野多恵子招へい教員(現・星城大学准教授)らの研究チームによるもの。詳細は、国際科学誌「Journal of Alzheimer's Disease」に掲載された。
高齢化が進むことで、認知症有病者も増加することが予想されており、認知症予防方略の確立が課題となっている。認知症の主な原因疾患は、アルツハイマー病および脳血管疾患だが、それらに対する根治療法は現在のところ確立されておらず、認知症発症抑制あるいは発症遅延のための非薬物療法の可能性を拡大することが重要と考えられている。
近年では、習慣的な運動あるいは身体活動が認知症および認知機能低下の予防に効果的であることを示す報告がされるようになってきたが、これまでのところ、認知機能向上効果を運動要素間で比較した研究はほとんどなく、どのような種類・内容の運動プログラムが有効であるかは不明だったという。
そこで研究チームは今回、認知機能向上効果に関して報告数が多い運動要素として、有酸素運動とレジスタンス(筋力)トレーニングに着目。有酸素運動、レジスタンストレーニング、両者を組み合わせたプログラムの効果の違いについて、ランダム化比較試験により比較検証を行うことにしたという。
今回の研究の対象者は、65~85歳の高齢者415名で、アンケートの結果、認知症予防のための介入の必要性が高い集団「認知機能低下に関して主観的な訴えがある高齢者」と判断された人たち。これらを(1)有酸素運動群、(2)レジスタンストレーニング群、(3)有酸素+レジスタンス群、(4)コントロール群にランダムに割りふり、(1)~(3)の対象者たちには、1回60分・週2回の別プログラムの運動教室に6か月間(26週間)通って運動を実施してもらい、効果測定を行ったほか、6か月の観察期間後のフォローアップ調査において測定が行われたという。
その結果、コントロール群と比べて、有酸素運動を行った群の遅延再生課題成績(記憶力を反映)の有意な上昇が認められたとしたほか、レジスタンストレーニングを行った群・両方を組み合わせたプログラムを行った群では、こうした効果は見られなかったという。またこの効果は、元々記憶力低下を有していた群では見られなかったとしている。
この結果について研究チームでは、認知機能低下の予防には有酸素運動が効果的であり、また、認知機能が低下し始める前から有酸素運動を取り入れることにより、この効果が明らかであることが見出されたとしており、今後、今回の研究結果をもとに、認知症予防に効果的な運動介入プログラムを提案し、介護予防における運動指導の指針を作成することを目指すとしている。