北海道大学(北大)、東北大学、Tianma Japanの3者は6月17日、3者が2020年に共同開発した「蛍光偏光免疫分析法」を用いた鳥インフルエンザ診断に利用可能なポータブル装置を改良し、また新たな測定試薬を開発することで、約0.25μLの献体量を用いて、約20分で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の抗体検査を行える抗体検査技術を開発したと発表した。
同成果は、北大大学院総合化学院の西山慶音大学院生(研究当時)、同・高橋和希大学院生、北大大学院工学研究院の渡慶次学教授、東北大多元物質科学研究所の火原彰秀教授を中心に、Tianma Japanの研究者を加えた共同研究チームによるもの。詳細は、バイオセンサーとバイオエレクトロニクスを扱う国際ジャーナル「BiosensorsandBioelectronics」にオンライン掲載された。
日本でも新型コロナワクチンの接種が進みつつあるが、世界中のすべての人々がワクチンを接種するにはまだ長い時間を要することが見込まれている。しかも、人類が対策を進める中、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)も次々と変異株を生み出し続けている。
変異株の中にはヒトの免疫を回避する特徴を持つものの出現なども懸念されており、新型コロナと人類の戦いを終息へと向かわせるには、今後も感染者の迅速な特定と隔離・治療の継続が必要となる。
現在、新型コロナの診断に用いられているのは、主にPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法とイムノクロマト法の2種類で、PCR法は正確かつ高感度だが時間がかかる、一方のイムノクロマト法は、短時間で抗体の測定が可能だが、測定の正確さに欠け、定量的な評価ができないという、一長一短の課題を抱えている。
そうした中、研究チームは2020年に液晶とイメージセンサを組み合わせた蛍光偏光免疫分析法(FPIA)による「ポータブル蛍光偏光測定装置」を開発。鳥インフルエンザ診断への応用に成功したことを報告していたが、今回の研究では、そのポータブル蛍光偏光測定装置で新型コロナの抗体検査を実現するための改良などを行ったという。
具体的には、抗体検査のためにSタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)断片に蛍光分子を標識し、抗SARS-CoV-2抗体と結合可能な試薬「F-RBD」を開発。血清中の抗体の定量を可能とした。
また、血清自体が持つ蛍光の影響を低減させ、精度の高い測定を実現するため、従来よりも長波長の蛍光が検出できるよう、ポータブル蛍光偏光測定装置の改良を実施したほか、測定に必要な血清量を削減することを目的に、マイクロ流体デバイスを採用。その結果、測定で必要とする血清量を0.25μLまで減らすことに成功したという。
なお、この測定装置の重さは4.3kgであり、市販の蛍光偏光測定装置の1/5ほどであるとしているが、現在は、さらなる小型・軽量化にも取り組んでいるという。
検査は、患者から採取した血清をF-RBDと混合したあと、15分後にマイクロ流体デバイスに導入し、ポータブル蛍光偏光測定装置により偏光度を測定するというごく簡単な操作で完了するという。実際に新型コロナの陽性および陰性患者の血清を用いて検査を行ったところ、陽性患者の血清は陰性患者より大きな偏光度が示され、検査結果の統計解析から高い精度で陽性と陰性を判別可能であることが明らかになったとしている。
研究チームによると、すでにポータブル蛍光偏光測定装置によるウイルス粒子の検出にも成功しているとのことで、将来的には、ウイルスと抗体を同一プラットフォームで同時に測定ができるようになることも期待されるとしている。