横浜市立大学(横浜市大)は6月14日、2020年に開発した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の抗原を特異的に検出できる「モノクローナル抗体」のさらなる性状解析および抗体を用いた実証研究を、横浜市衛生研究所、国立感染症研究所などとともに進め、同抗体により感染拡大傾向にあるさまざまなSARS-CoV-2変異株も、従来株と同様に検出できる、高精度な抗原検出キットの開発が可能であることを明らかにしたと発表した。

同成果は、横市大大学院 医学研究科 微生物学の梁明秀教授、同・宮川敬准教授、同・山岡悠太郎客員研究員(関東化学所属)らの研究チームによるもの。詳細は、臨床生物医科学を題材にしたオープンアクセスジャーナル「Cell Reports Medicine」に掲載された。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を制御するための重要な要素として、臨床現場で即時かつ簡便に検査を行える抗原検出キットを普及させることが挙げられるが、そのキットの性能は、原料に用いるモノクローナル抗体の品質に依存することが知られている。しかし、現在流通しているキットの精度は、まちまちであるという。

研究チームは2020年4月に、新たなモノクローナル抗体を関東化学との共同研究で開発したことを報告している。

  • モノクローナル抗体

    SARS-CoV-2のヌクレオカプシドタンパク質(NP)を免疫源に用いて、小麦胚芽無細胞タンパク質合成法によりオノクローナル抗体が複数樹立された。そして、NPの立体構造モデルにおける抗体の認識部位(エピトープ)が解明された (出所:横浜市大プレスリリースPDF)

それらのモノクローナル抗体が詳細に解析され、同抗体が認識するSARS-CoV-2のエピトープの立体構造の解明を進めたところ、そのエピトープが類縁のヒトコロナウイルスとは類似性が低い一方、SARS-CoV-2の各変異株間では保存されている領域であることが明らかとなった。

実際に今回の抗体は、SARSコロナウイルスを含むほかのヒトコロナウイルスや、偽陽性の原因となり得る、ライノウイルスやRSウイルス、インフルエンザウイルスなどとの交差反応性を示さず、SARS-CoV-2だけを特異的に検出可能で、かつ、感染拡大傾向にあるN501Y変異株などに対しても、従来株と同等の結合活性を有していることが確認されている。

  • モノクローナル抗体

    作成された抗体は、SARS-CoV-2だけを特異的かつ親和的に検出が可能 (出所:横浜市大プレスリリースPDF)

さらに、今回の抗体を用いた抗原検出キットが富士フイルムとの共同研究により開発された。海外製品を含む複数社の抗原検出キットとの比較検討が行われ、高精度に臨床検体中のウイルス抗原を検出できることが判明したという。

研究チームは今回開発した抗体を、引き続き国内外の企業などに導出し、各々が保有する独自技術と組み合わせることで、臨床現場が求める信頼性の高い抗原検出キットの開発普及に努めていくとする。なお、富士フイルムとの共同研究で開発された抗原検出キットは、厚生労働省より製造販売承認がすでに取得されているという。

また、今後も次々と変異株が出現することが想定されることから、開発した抗体が、それらに対して反応性を示すかどうかをモニタリングするとともに、予期しない変異により今回の抗体では対応できない事態に備えて、新規モノクローナル抗体の開発を継続して進める予定とした。