東北大学は6月7日、銀河「Arp187」の活動銀河核が作るおよそ3000光年にもおよぶ電離領域を“鏡”として利用することで、3000年ほど遅れて地球に届いた過去の活動銀河核の光度を見積もり、現在の光度との比較を行った結果、この3000年ほどの間に1000分の1以下に暗くなったことが明らかになり、活動銀河核が死につつある瞬間を捉えることに成功したと発表した。
同成果は、東北大学 学際科学フロンティア研究所の市川幸平助教らの研究チームによるもの。詳細は、米国にて6月7~9日に開催された「アメリカ天文学会年会」にて発表された。
宇宙に存在する多くの銀河の中心部には、太陽質量の数百万倍から約100億倍にもおよぶ大質量ブラックホールが存在することが知られているが、どうやったらそうした大質量ブラックホールに至るのかはよく分かっていない。
ブラックホールは光を出さないが、その周囲に落ち込んだガスなどは重力エネルギーを解放し、光を放つ。そのようにして放たれた光は、その大質量ブラックホールが属する銀河全体よりもまぶしいときも珍しくない。そうした強烈な光を放つ銀河中心部は「活動銀河核」と呼ばれ、活動銀河核を擁する銀河は「活動銀河」と呼ばれる(活動銀河核のうち、最も明るい部類が「クェーサー」)。
活動銀河核とは、大質量ブラックホールが活発に活動している証であり、明るくなった活動銀河核を観測すれば、その主役である大質量ブラックホールがどのように成長してきたのかを探ることができるという。
しかし、こうした活動中の活動銀河核はいくつも発見されているが、活動銀河核の活動が終焉を迎える現場は、これまで発見されてこなかった。今まで発見されてきた大質量ブラックホールは、もちろん超巨大ではあるが、太陽質量の“せいぜい100億倍”という見方をすることもでき、際限なく巨大化はせずに、いつかは活動が終焉を迎えることはわかっていた。
ところが、活動をやめた大質量ブラックホールは、その周囲からの強力な光を出さなくなってしまうので観測ができなくなってしまうという、観測上の問題があった。そのため、活動を終えつつある現場を観測するのは困難とされてきた。
そうした中、市川助教らは今回、活動銀河核が作り出す周辺環境の変化を活かすことで、これまで発見することが困難だった「死につつある活動銀河核」を発見することに成功した。
活動銀河核が発する光は、膨大かつ強大なまでの高エネルギーである。そのため、活動銀河核周囲のガスは電離され、その電離領域はおよそ3000光年にもおよぶという。
またブラックホールは光だけでなく、吸い込もうとしている物質の一部をジェットとして吹き出すが、そのジェットは1万光年におよぶことも珍しくないことも知られている。
市川助教らは、このようなジェットを吹き出している銀河の1つであるArp187に注目。同銀河をアルマ望遠鏡や米国のVLA望遠鏡などが観測した際のデータを用いて解析を実施したところ、ジェット特有の広がった2つの構造が見られた一方で、中心核に付随する電波が非常に暗くて見えないことに気がついたという。
そこで、活動銀河核のさまざまな物理スケールの特徴量をより詳細に調べた結果、100光年よりも小さい物理スケールでは、活動銀河核の特徴がまったく見られないことが判明。これは、活動銀河核がこの約3000年以内という、宇宙スケールで見れば“最近に”活動をやめたと考えると、自然に説明ができるとする。
いったん活動銀河核が活動をやめると、光の供給がなくなり小さいスケールから順々に暗くなる。ただし、大きいスケールを持つ電離領域では光が3000光年ほど“寄り道”してから届くため、3000年前の活動銀河核の光がまだ観測できるのだという。
市川助教らこの活動銀河核がどの程度暗くなったのかも明らかにした。たとえば、電離領域の光度は太陽の約3兆倍であり、3000年ほど前は非常に活発だったことが推測されたとする。
それに対して活動銀河核の現在の光度は、NASAのX線観測衛星のNuSTARによればX線は検出されず、太陽光度の約10億倍よりは暗いことが判明したという。これは、Arp187内の活動銀河核が、この3000年ほどで光度が1000分の1以下まで暗くなったことを示しており、活動を終えつつある証拠ということである。
なお、今後は同様の手法を用いて、死につつある活動銀河核をより多く探査することを検討中だとするほか、超巨大ブラックホール周辺の分子ガス分布を調査することで、超巨大ブラックホールの最期がどのような環境なのかを明らかにする予定としている。