米国連邦議会上院(定数100名)は6月8日(米国時間)、中国に対抗し先端技術の競争力向上を目指す「米国技術革新・競争法案(USICA:United States Innovation and Competition Act)」を賛成68票、反対32票で可決した。
米国内での半導体製造強化や研究開発の補助金として計520億ドル(約5兆7000億円)を支給する内容を含む。今後、下院での審議・可決の後、バイデン大統領が署名することにより成立する。
同法案は、中国の台頭に経済的かつ戦略的に対抗するため、米国の製造業と技術に総額約2500億ドル(約27兆円)を投じて競争力を強化する包括的な法案であり、中国の競争力の高まりに米国が後れを取ることについて民主、共和両党が危機感を抱き、超党派で提出されたもの。そのため、両党からの支持を得られた。法案には大学や研究機関の研究開発拡充に主に充てられる1900億ドルの支出のほか、半導体メーカーの増産支援に向けた520億ドルの緊急支出も盛り込まれた。
2020年6月に連邦議会に提出された、米国の半導体製造を強化するための法案「Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors for America Act (CHIPS for America Act)」は国防権限法の一部として組み込まれ、2021年1月に成立。商務省の補助金や国防総省が主導する研究開発を通じて半導体製造を強化する方針が盛り込まれていたが、今回の法案は、それに実際に予算を充てるためのものとなる。
バイデン大統領や半導体業界が称賛声明
バイデン大統領は、「本日上院で可決された米国イノベーション・競争法は、研究開発と高度な製造に投資し、重要な産業を成長させ、将来の雇用を勝ち取るのに役立つ。人工知能からコンピューターチップ、スマートデバイスや電気自動車に使用されるリチウム電池に至るまで、ここアメリカで、明日の最も重要なテクノロジーを発見、構築、強化することができるようになる。イノベーションのためのインフラストラクチャを強化することで、次世代のアメリカの雇用と、製造とテクノロジーにおけるアメリカのリーダーシップの基盤を築くことができるようになる。私は、この重要な超党派の法律について今後下院と協力し、できるだけ早く署名することを楽しみにしている」との声明を発表した。
また、米国半導体工業会(SIA)、SEMI、および半導体向け予算獲得のロビー活動を行うために新たに2021年5月に結成された半導体サプライヤとユーザーの連合組織であるSIAC(Semiconductors In America Coalition)も同日、それぞれ個別に、上院での同法案の可決を称賛するとともに、下院でに審議を促す緊急声明を発表している。
520億ドルには日本の装置・材料メーカーの誘致費用も含まれる?
6月6日にBSにて放送された半導体特集番組では、米国商務省は今回可決した5兆7000億円の中身には、TSMCの誘致のほか、日本が強みを持つ半導体製造装置・材料メーカーの米国への誘致費用も含まれているとしていた。これに対し、政府側からは、そうなれば日米協調でサプライチェーンを形成する前提が崩れるのではないかとの懸念が示されており、米国が半導体産業の育成強化に充てるこの超大規模予算が、実際にどのように使われるのかを日本としてもしっかりと注視する必要がでてきたと言える。