東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センターと日本アイ・ビー・エム(IBM)は6月8日、新型コロナウイルスのゲノム変異解析および感染経路同定に活用できる「HGC SARS-CoV-2 Variant Browser」を開発し、運用を開始したと発表した。
HGC SARS-CoV-2 Variant Browserは、IBM ResearchがCOVID-19向けに開発してきたSARS-CoV-2 Variant Annotatorと、IBM Garageと共同開発して公開したSARS-CoV-2 Variant Browserをベースに開発された。既に東大医科研において運用が開始されており、今回は新たに国外からの新型コロナウイルス流入時期や、国内の感染経路を把握するための新機能を双方の協力により実装した。
さらに、東大医科研は新型コロナウイルスをシークエンス解析した生データを、HGC SARS-CoV-2 Variant Browser で可視化し解析できるよう、データ解析パイプライン「HGC_CovidPipeLine」を公開した。
「HGC SARS-CoV-2 Variant Browser」の活用により、感染者から採取された新型コロナウイルスと、過去に報告された新型コロナウイルスを比較し、どの時期に海外から国内に流入したかを調べられるようになる。
また、国内流入後に、どの地域で報告されているかを確認可能なため、ウイルスが一部の地域にとどまっているのか、あるいは他の地域でも広がっているのかを検討できる。
国内で新たな変異が発見された場合に、同様の報告が海外でもあるのかを調べる機能も備わっているため、変異の検索だけでなく、地域や時期での検索による新型コロナウイルスの変異状況を把握することが可能となる。
両者によると、今回のシステム運用にあたり最も大切な点は、過去に登録された新型コロナウイルスのゲノムデータ活用であるとのこと。これまでに公開されているゲノムデータは国によって差があり、さらに国内でも都道府県によって異なっていた。これらのデータの傾向を把握するため、「HGC SARS-CoV-2 Variant Browser」には世界および日本で公開されている新型コロナウイルスゲノムの登録数や変異株などを、一目でモニタリングできるビューアーが実装されている。
新型コロナウイルスは今後も新たなゲノム変異を蓄積していくと予想され、国内外でワクチン回避を起こす恐れのある変異株や、新たな動物感染を引き起こす変異株の出現が懸念されている。両者は今回の取り組みを通じて、こうした課題に対し、引き続き対応を続けていくとし、さらに、より早く懸念される変異を捉えるためにゲノムデータを活用できる体制の構築を目指す考え。
東大医科研は今回のシステムについて、コロナ制圧タスクフォースにおいて収集する新型コロナウイルスゲノムの解析や、オリンピック・パラリンピックによる人流に起因するウイルス伝播のモニタリングに活用し、新型コロナウイルスの基礎研究ならびに感染拡大防止策の立案に貢献して行けるのではないかとしている。