千葉大学は6月7日、既存の治療方法が効きにくい慢性腰痛症患者への運動療法として、Nintendo Switchのフィットネスゲーム「リングフィットアドベンチャー」をプレイすることで、腰痛や臀部痛が軽減したり、痛みに対する自己効力感が向上したりすることを明らかにしたと発表した。

同成果は、千葉大 医学部附属病院 整形外科の佐藤崇司医員(現・独立行政法人国立病院機構 下志津病院 整形外科医師)、千葉大 未来医療教育研究機構の清水啓介特任助教、千葉大大学院 医学研究院 整形外科学の大鳥精司教授らの研究チームによるもの。詳細は、ゲームが人間の健康と幸福に与える影響を推進することを専門とする学術誌「Games for Health Journal」に掲載された。

ヒトは、初期の猿人時代はサルやゴリラなどのように前傾姿勢で4本脚に近い状態だったとされるが、その後の進化の過程で直立歩行をするようになった。両手を自由に使えるという大きなメリットを得て、ホモ・サピエンスの誕生へとつながっていったと考えられているが、その代償として、身体構造的に腰痛の発生しやすい宿命を抱えてしまったと言われている。

腰痛も複数あるが、中でも厄介なのが、難治性で知られる慢性腰痛症であるという。慢性腰痛症は強い痛みが自覚されるにも関わらず、画像診断などでは障害や病変の原因などを特定できず、原因不明と診断されてしまうことが少なくない。痛み止めの内服薬や注射、リハビリ、手術など多様な治療法があるが、どれを試みても満足な効果を得られないことも多いとされ、より効果的な新たな治療法が望まれている。

近年の研究では、中枢神経系における痛覚のブレーキシステムの破綻や、抑うつなどの心理社会因子が痛覚を強めていることが明らかになってきており、認知行動療法も積極的に取り入られている。しかし、それでも効果がない患者も一定数存在しているという。

また運動療法は一定の効果がある一方で、運動を苦手とするなど、継続困難なケースも多い。そのため、「誰しもが楽しく気軽に、そして継続的に運動をすることができる」手段が求められていた。そうした中、研究チームでは全世界で1000万本を販売したというNintendo Switchのフィットネスゲーム「リングフィットアドベンチャー(RFA)」に注目。痛み治療の新たなツールとなる可能性があると考えたという。

今回の研究には、千葉大附属病院を受診した難治性腰痛の患者40名が参加。通常の内服治療に加え、週に1回40分間のRFAを実施する介入群20名と、内服治療のみの対照群20名について、介入時と終了時の腰痛、臀部痛、下肢しびれ、痛みに対する自己効力感(痛みがあっても幸せな生活を実現できるという自信の強さに関する指標)、運動恐怖感(患肢を動かすことへの恐怖心)、痛みの破局的思考(痛みによる恐怖や不安が病的なほど過剰に続く心理状態)が比較された。

その結果、腰痛、臀部痛、自己効力感において介入群で有意な改善が認められたという。運動療法としての全身の筋肉関節の柔軟性・可動域・血流改善による鎮痛効果だけでなく、自ら汗を流してキャラクターを動かし、要所をクリアするといった主体的な達成感を得ることによって、自己効力感が高まり、痛みの軽減につながった可能性が示唆されるという。

  • リングフィットアドベンチャー

    介入前後における疼痛および心理スコアの変化 (出所:千葉大プレスリリースPDF)

なお、研究チームは今回の研究成果に対し、難治性の慢性腰痛症に対し、医療機関の治療のみでなく、RFAという市販ゲームを用いて専門家がいなくても腰痛や健康の自己管理できることが利点であるとしているほか、増大を続けている日本の医療費を、RFAの活用によって削減できる可能性を指摘できたことの意義は大きいと考えているとしている。