京都府立医科大学は6月4日、「子宮腺筋症」が及ぼす不妊発症メカニズムの一端を解明したと発表した。
同成果は、京都府立医科大 附属病院 臨床研究推進センターのカーン・カレク准教授、同大学の北脇城名誉教授らの研究チームによるもの。詳細は、欧州生殖医学会雑誌「Human Reproduction」に掲載された。
子宮腺筋症は、子宮筋層内に子宮内膜腺管様組織が存在する疾患で、慢性骨盤痛、月経困難症、過多月経、貧血などの症状を有する疾患で、性成熟期後半に好発するため、従来は不妊症との関連は指摘されておらず、むしろ経産婦に多いと考えられてきた。
しかし近年、晩婚・晩産化に伴い、医療機関での子宮腺筋症を合併する挙児希望女性(妊娠出産を希望する女性)への対応の機会が増加しているという。子宮腺筋症の臨床像は幅広く、重症の子宮腺筋症は難治性の不妊症となるとされるが、これまでの研究から、子宮から卵管内の精子輸送異常や組織内炎症の存在、炎症が誘導する卵管粘膜繊毛の損傷などがその要因とされるが、その発症機序などはよくわかっていなかったという。
このような背景のもと、研究チームは今回、子宮腺筋症が及ぼす不妊症発症機序を明らかにするため、子宮腺筋症(局在型、びまん型)における子宮内膜における組織マクロファージ(免疫細胞の一種)の発現と、子宮内膜上皮の微絨毛(びじゅうもう)内における微小管の分布についての検証を行ったという。
研究チームはまず、手術時に得られた子宮腺筋症(局在型、びまん型)、子宮内膜および対照(子宮頸部上皮内腫瘍)検体における「CD68マクロファージ」の発現について、免疫組織化学法を用いた検討を実施。さらに、子宮腺筋症患者(局在型、びまん型)の患側(症状がある側)および健側(症状がない側)子宮内膜における微絨毛数および微絨毛内の微小管の分布について、透過型電子顕微鏡を用いた評価が行われた。
その結果、子宮内膜におけるCD68マクロファージが、子宮腺筋症(局在型)の患側および局在型の前壁/後壁で有意に発現していることが判明(P=0.02、0.03)。子宮腺筋症(局在型)患者のうち、症状を有する群(有症状群)と有さない群(無症状群)におけるサブグループ解析では、有症状群の患側子宮内膜においてマクロファージが無症状群よりも多く浸潤している傾向が示されたという(P=0.07)。
また、有症状群の局在型の患側子宮内膜におけるマクロファージは、健側と比べて有意に高発現していることが確認された(P=0.03)ほか、対照群の子宮内膜におけるマクロファージの発現は、子宮腺筋症(局在型)の子宮内膜より低いことが示されたという。
さらに電子顕微鏡を用いた子宮内膜上皮における微絨毛数の観察の結果、局在型の患側では健側に比べて有意にその数が減少していることが判明したほか、子宮腺筋症症例では微小管の異常が多く認められたという。局在型での患側では、特に異常な微小管が多く認められたほか、びまん型でも対照群と比べて有意に微小管の異常が判明したという。
これらの結果から研究チームでは、子宮腺筋症女性の子宮内膜における微絨毛内の微小管の異常分布が、その妊孕性(にんようせい)の低下に関与している可能性があるとしている。これについて、子宮腺筋症女性の子宮内膜上皮における微細な構造変化が妊娠成立に必要な精子の遡上や胚の着床に影響すると考えられるとしている。
なお、晩婚化・晩産化により増え続ける子宮腺筋症を合併する挙児希望女性にとって、重要な知見であり、子宮内膜上皮をフォーカスとする新たな生殖医療の展開が期待されるとしている。