東北大学は6月4日、磁性ワイル半金属「Co3Sn2S2」薄膜の膜厚を精密に制御することで、「磁性ワイル半金属」状態における表面伝導の発現を捉えるとともに、その金属的性質を明らかにしたと発表した。

同成果は、東北大 金属材料研究所の池田絢哉大学院生(研究当時)、同・藤原宏平准教授、同・塩貝純一助教、同・関剛斎准教授、同・野村健太郎准教授、同・高梨弘毅教授、同・塚﨑敦教授らの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の物理学を扱うオープンアクセスジャーナル「Communications Physics」に掲載された。

近年、「トポロジカル物質科学」が急速に発展しているが、磁性ワイル半金属は、そうしたトポロジカル物質群の一種として知られている。

研究チームも、代表的な磁性ワイル半金属であるCo3Sn2S2(コバルト・スズ・硫黄の化合物)を薄膜化し、膜厚の系統的制御による物性評価をこれまで行ってきたという。

今回の研究では、シンプルかつ制御性の高い膜厚をパラメータに用いることで、膜厚に比例する内部の伝導成分と膜厚に依存しない表面の伝導成分を分離できることに着目。未達成だった表面伝導の検出を試みることにしたという。

これまでの研究からは、Co3Sn2S2は20nm以上の膜厚で磁性ワイル半金属の特徴を持つことが明らかとなっており、今回はそれらの試料を対象に、シート伝導度(単位面積当たりの伝導度)の詳細な評価を実施したという。

  • 磁性ワイル半金属の表面伝導

    磁性ワイル半金属の表面伝導 (出所:東北大プレスリリースPDF)

一般的に磁気秩序は高温で熱の影響を受けて物質中の(電子の)スピンがランダムな方向を向いた常磁性状態であり、一定の温度以下=磁気転移温度(物質によって異なる)になると同じ方向に向いた強磁性状態になる。

Co3Sn2S2の場合は、約180K(約-93℃)が磁気転移温度で、それ以上の常磁性状態では、シート伝導度は膜厚と比例関係にあり(オームの法則)、薄膜試料内部の伝導成分のみを考慮することで説明することが可能だという。

一方、磁気転移温度以下で強磁性の磁性ワイル半金属状態になると、シート伝導度が急激に増加するとともに、膜厚ゼロnmに対応するシート伝導度に有限の切片成分が明瞭に現れたという。この結果は、膜厚に比例する試料内部の伝導成分に加えて、強磁性状態になると膜厚に依存しない伝導成分が出現することを意味していると研究チームでは説明する。

  • 磁性ワイル半金属の表面伝導

    Co3Sn2S2薄膜のシート伝導度の膜厚依存性。(a)常磁性状態。(b)強磁性状態(磁性ワイル半金属)。金属伝導の比較に用いられる物理的指標(残留抵抗比)の観点から、優れた伝導を示す試料群Aとそれ以外の試料群Bに分類され、表面伝導の違いが議論された (出所:東北大プレスリリースPDF)

さらに、この膜厚に依存しない伝導成分が温度低下に伴い増加すること、つまり金属的な温度依存性を示すことも判明。磁性ワイル半金属の表面伝導であることが結論付けられたとしている。

  • 磁性ワイル半金属の表面伝導

    膜厚依存解析から算出された表面伝導成分の温度依存性。磁気転移温度以下で急速に発達する (出所:東北大プレスリリースPDF)

今回の結果は、これまで盛んに議論されてきたCo3Sn2S2の表面伝導を検出することに成功したものであり、磁性ワイル半金属の物性解明に大きなインパクトをもたらすものだと研究チームでは説明しているほか、今回用いられた膜厚制御の手法はCo3Sn2S2に限定されるものではなく、さまざまな物質系への適用が可能であることから、表面伝導の基盤的評価手法としての発展が期待できるともしている。加えて、優れた金属的表面伝導の存在を実証したことで、磁性ワイル半金属を用いることで実現される素子機能の実験的検証も加速することが考えられるとしている。

なお、薄膜試料は、表面伝導の評価に効果的であるだけでなく、産業応用を目指した素子化研究にも不可欠であることから、今後、磁性ワイル半金属の薄膜研究が活発になることが予測されるという。