新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は6月3日、現行の電気自動車(EV)やプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)に搭載されているリチウムイオン電池(LIB)を、性能・生産コスト両面でしのぐ革新型バッテリーの研究開発事業「電気自動車用革新型蓄電池開発」をスタートさせたことを発表した。具体的には「フッ化物電池」と「亜鉛負極電池」の2種類をターゲットとして研究開発を行う。事業予定総額は110~120億円で、期間は2021~2025年度の5年間。
世界の主要国では、自動車のCO2排出・燃費規制が強化されており、今後はさらなる自動車の電動化が進展することが予想されている。2020年代中に年間数百万台規模でのEVやPHEV販売計画を発表したメーカーや、2030~2040年代にかけて、ガソリン車を廃止し、ラインナップをハイブリッド車、EV、PHEV、燃料電池車(FCV)などにすることを発表したメーカーもある。
そこで課題となってくるのがバッテリーだ。現行のLIBでは、航続距離が短い(航続距離を長くするには多量に積む必要があり、車重が増加して結局電費が悪くなる)、充電時間が長いなど、利便性に難がある。つまり、(安全性を確保した上での)高エネルギー密度化による性能向上とコスト低減が強く求められる状況となっている。
現行のEV・PHEVに搭載されている有機電解液を用いるLIBは、そのエネルギー密度と安全性がトレードオフの関係にある。液体のため、LIBの筐体が破損すれば外部に漏れる危険性があり、リチウムは酸素に触れると激しく燃焼する性質がある。火災事故を防ぐため、安全マージンを取って現行のEVの充電時間は15~20分程度と、長く設定されているのである。
また、LIBを含むバッテリーパックが車両コストの約3分の1を占めるといわれている。つまり、メーカーがEV・PHEVの低価格帯モデルを計画しても、ガソリン車と同レベルの収益性を確保することは困難というわけだ。そのため、現在のEVは同性能のガソリン車と比較すると高額だ。海外メーカー製のEVなどは1000万円前後のものが普通となっている。その一方で価格を抑えた車種は、航続距離が大きく劣るなど、課題が多い。
加えて、LIBの電極活物質や電解質に用いられるリチウムやコバルトはレアメタルである。短・中期的に見て資源自体が枯渇する心配はないとはいわれているものの、経済的に採掘可能な地域に偏りがあることから、今から10年後、20年後のEV・PHEVが普及するような時代に、安定した調達が難しくなる可能性がある点が懸念されている。
こうした背景を受けNEDOは今回、日本の自動車・バッテリーメーカーなどによる、現行のLIBを性能・コストの両面でしのぐ革新型バッテリーの開発をスタートさせたという次第だ。革新型バッテリーを搭載したEV・PHEVを世界に先駆けてグローバル市場に投入することにより、国内の自動車・バッテリー産業の競争力維持・向上を実現させ、同時に運輸部門でのCO2排出量削減にも寄与しようという狙いである。
具体的には、2016~2020年度にかけて実施された前プロジェクト「革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発」(事業総額:約166億円)の成果を踏まえ、2種類の革新型バッテリーの開発にターゲットを絞る。エネルギー密度と安全性のポテンシャルや日本のオリジナリティが高い「フッ化物電池」(京都大学の発明)と、安全性に大きなメリットがあり低コスト化にも有利な「亜鉛負極電池」の2種類だ。2021年度から5年計画で新たな研究開発に着手するとしている。
この研究開発では、LIBに使われるリチウムやコバルトと比較して、資源制約や調達リスクの少ない元素を用いた高性能・低コストの電極活物質・電解質を開発し、それらを用いた電極構造の開発やセルの設計・試作および特性評価・解析に対応した共通基盤技術の研究開発を行うとしている。
また、その評価結果を取り込むことで、セルの充放電性能などをシミュレーションによって予測技術を開発し、事業終了後も参画企業が実用化開発を継続し、バッテリーパックとしての実用化指標が達成可能であることを総合的に評価するとしている。
いずれのバッテリーにおいても目標達成に向けた難易度が高いことから、今回の事業は先端的な材料科学や高度な解析技術を持つ大学・公的研究機関と、車載用バッテリーの開発・実用化で豊富な実績を持つバッテリーメーカー、エンドユーザーとなる自動車メーカーなどと、産学官連携で事業を実施することにしたという。
委託先は以下の通り(順不同)。フッ化物電池を開発したことで知られる京都大学が代表機関を務める。
大学
京大、東京工業大学、早稲田大学、大阪大学、公立大学法人大阪(大阪府立大と大阪市立大を統合して2022年度に開学予定)、金沢大学、九州大学、東京大学、東北大学、国立大学法人東海国立大学機構(名古屋大学と岐阜大学を設置)、名古屋工業大学、兵庫県公立大学法人(兵庫県立大学と芸術文化観光専門職大学を設置)、三重大学、山口大学、立命館大学
研究機関
産業技術総合研究所、高エネルギー加速器研究機構、ファインセラミックスセンター
自動車メーカー
トヨタ自動車、日産自動車、本田技術研究所
そのほかバッテリーメーカーなど
ダイキン工業、パナソニック、旭化成、昭和電工マテリアルズ、日本電気
さらに、NEDOがこれらプレーヤーの英知を事業内で好循環させるマネジメントを行うことで、革新的な車載バッテリーの実用化を実現する技術的なブレークスルーの創出を目指すとしている。